「アズラーイール! 出て来い! お前の使命を果たせ!」

俺の呼び声に、天上のゲートは開き、天使はその姿を現した。

「涼介を頼む」

「お前に頼みごとをされる覚えはない」

その手には、天界の剣が握られていた。

「ちょうど都合がいいじゃないか。お前は短期間に二度も人間の死を引き受け、弱っている。あんな低級妖魔にこの剣を持ち出すのはもったいないが、お前が相手となると、話しは別だ」

アズラーイールは、その手に聖剣を構えた。

「お前を裏切ったあの女共々、冥界に送り出してやろう」

空中に浮かび上がったスヱは、アズラーイールの持つ剣を目にして、一瞬動きを止めた。

「獅子丸の肉を喰い、力をつければ、お前なんぞ敵ではない!」

スヱが襲いかかる。

その動きを見計らって、アズラーイールは横に動いた。

スヱを殴りつけたその俺に、聖剣が振り下ろされる。

跳び上がって、後ろに剣先をよける。制服の胸に一筋の切れ目が入った。

「あきらめて、今すぐ魔界へ帰れ。そうすれば、お前の命は助かる」

「それは、涼介の魂をあきらめろと言っているのか?」

「俺がきちんと面倒を見てやる。お前はもう関わるな」

剣は聖なる光を帯びる。

さらに力を増したそれを、アズラーイールは振り回した。

「天使のくせに、剣術も学ぶのか」

「悪魔のくせに、天界の流派を知っているとは、悪魔らしくもない」

スヱは無駄に長い体をぐるりとひねり、俺の背後から泥を吐いた。

飛び散った細かい泥は、俺の体を這い上がり、喉を締め上げる。

俺は目の前で剣を振りかざすアズラーイールの刃先をよけると、泥を引きはがし地面に叩きつけた。

振り下ろされる刃の下をかいくぐり、飛び上がって、少し離れた位置に降り立つ。

反撃を、しなければ。

そうは分かっていても、呼吸は荒く、軽くめまいもしている。

俺は胸に手をあて、止まった心臓に動けと命じた。

それはようやく、コトリと小さな音を一つたてる。