俺は波動を山下に向かって飛ばした。

その空気の刃は、山下の腕を切り裂く。

その瞬間、校舎の屋上の床面が破壊され、巨大なムカデとなったスヱが姿を現した。

「獅子丸さま! 人間の魂とは、このようにして奪うものでございます!」

ムカデが襲いかかる。

俺は手の平の火球を、スヱに投げつけた。

山下は涼介を引きずったまま、校舎から飛び降りる。

「涼介!」

伸ばした手は、山下の体をすり抜け、涼介の足首をつかんだ。

俺はそれを引きずりあげる。

階下には、スヱに取り憑かれたまま転落した、山下の姿が見えた。

「それが偉大なる魔王の息子のすることか! なさけない! いつまでも屋敷の奥に引きこもり、甘えてばかりの出来損ないが! 聖人の魂くらい、なぜ奪えぬ!」

巨大なムカデが、怒りに狂い宙を舞う。

死んだ山下の体から、スヱとの契約を交わした魂が抜け出した。

スヱという低級妖魔にそそのかされ、命を落としたその小さな魂は、契約者の元へと漂う。

巨大なムカデとなったスヱは、それをガシャリと飲み込んだ。

若い人間の魂の力を得たスヱは、その力を増幅させる。

「それで魔界公爵家の跡取りとは、笑わせるな!」

涼介の息が細い。

「獅子丸、俺のことは、大丈夫だから」

「お前は何も心配するな」

無理な移動は出来ない。

止まった心臓を抱えた身では、体が重かった。

仕方がない。