「獅子丸さまからいただいた力で、私自身も精進に励んでおりました」

スヱは、楽しそうに笑う。

「この辺りに巣くうケダモノの魂を喰い、死んだ人間の魂も奪いました。お陰で随分と、立派になったでしょう?」

スヱの飛ばす泥が、ムチのようにしなり、襲いかかってくる。

「あぁ、どうしましょう。こんな死に損ないのような状態の獅子丸さまにだったら、私にも勝てるのかしら」

スヱの体が、ふわりと宙に浮いた。

「そうしたら私は、悪魔公爵家の第一養女として、認められるのかしらあぁぁつっっ!」

泥の波が覆い被さる。

そんなことより、今は涼介の方が大事だ。

動かない心臓のせいで、息が苦しく体もだるい。

俺は重たい足を引きずって、校舎へ向かう。

「獅子丸さまは、随分とご自分に自信がおありなのですねぇ、そのうぬぼれは、どこからやってくるのでしょう」

泥の塊が飛んで来る。

それは俺の体に巻き付くと、足の動きを奪い、首を絞めた。

「邪魔だ」

波動の力で、まとわりついた泥を吹き飛ばす。

俺は次の一撃を、スヱに向かって飛ばした。

切り裂かれた空気の刃が、泥で出来た女の体を真っ二つに切り裂く。

それを見届けると、俺はもう一度校舎を振り返った。

涼介を引きずったまま、山下は校舎の屋上へと向かっている。

「さすがですわ、獅子丸さま」

俺の背後で、スヱの声がした。

二つになった体が、泥となってまた一つになる。

そこから姿を現したのは、巨大なムカデに姿を変えた、スヱだった。

「どうせなら、聖人の魂と一緒に、あなたの肉もいただきたいと思うのは、当然のことだと思いません?」

ムカデの大顎が、俺を狙って鋭い牙を打ち鳴らす。

その攻撃は飛び上がって避けたものの、そんな動きをしただけで、俺の胸に潰れそうなほどの痛みが走る。

くそっ、面倒なことになった。

俺は校舎に向かって走り出した。