「呪いをかけるには、ちゃんとした素材を媒体に、その対象にとって有効な呪いをかけるのですよ、お坊ちゃま」

俺の意識と、涼介の意識がシンクロする。

涼介の頭の中に、過去の記憶が写し出された。

死んだはずの弟が、記憶の底から蘇る。

一佐はハサミを手に、涼介に襲いかかった。

それを何度も何度も、寝ていた涼介の胸に突き立てる。

起き上がった涼介は、弟一佐を突き飛ばした。

一佐はナイフを取り出す。

涼介は、胸に刺さったハサミを引き抜くと、それを弟の首元に突き刺した。

「やめろ! 違う、違うんだ!」

涼介が叫ぶ。

「何が違うっていうのよ。これがあの夜の、本当なんでしょ? あなたの記憶がどうかとか、真実だなんて、関係ないわ。私はあなたが苦しんでさえくれれば、それでいいんだもの」

一佐は涼介に襲いかかる。

一佐の手にしたナイフは、そこに現れた父を刺し、母親を刺し、自分自身を刺し殺した。

「さぁ、次はあなたの番よ」

一佐の亡霊が、立ち上がる。

銀のナイフを、涼介の上に振りかざした。

「やめろ」

俺はスヱの見せる幻覚を吹き飛ばす。

「獅子丸さま、獅子丸さまがその男の魂を要らないとおっしゃるのであれば、遠慮なく私がいただきます」

山下が、涼介の背後からつかみかかった。

「おい!」

それを引き離そうと、山下に伸ばした俺の手は、その体をすり抜ける。

「獅子丸さまのお相手は、私がいたします」

足元を、泥が覆い尽くす。

涼介は山下に引きずられるように、校舎に運ばれていく。

「お前、何をする気だ!」

「聖人の魂をいただくと、言いました」

くそっ。

俺は自分の体中にある、止まったままの涼介の心臓を動かした。

その鼓動はとても弱く、まともに動かせる状態ではない。

このまま無理にでも動かし続ければ、簡単に壊れてしまうだろう。

俺は引きずられていく涼介を振り返った。

だけど、ここで俺の心臓を涼介の体から外せば、確実にあいつは、死ぬ。