「はは、ダメじゃないか。いつも言ってるだろ、キャラ守れって」

呪いが解ける。

涼介は、涼介に戻る。

「違う。俺の悪魔としての呪いのかけ方が未熟で、お前は祝福を受けているせいだ」

俺の手を握る涼介の力が、弱くなる。

その顔は、苦痛に歪んだ。

「また心臓か?」

その痛みを、もう一度俺にうつす。

こんなことをして、いつまでもごまかせるわけではないが、今この瞬間の死だけは、回避出来る。

動きの弱った涼介の心臓は、俺の体内で、静かに止まった。

機能を交換した俺の心臓は、涼介の消えそうな命を無理矢理支えている。

心臓の完全に止まった俺は、瞬間的に視界が闇に覆われる。

額に流れる汗をぬぐった。

「獅子丸さま」

その声に、俺は顔を上げた。

「獅子丸さまは、本当にこの人間の魂を手に入れたいと思っているのですか?」

スヱの顔は、怒りに歪んでいた。

「これが、悪魔公爵ウァプラさまの息子とは、本当になさけない」

スヱの体から、瘴気が走った。

とたんに、大きな雷が一つ、校舎に落ちる。

その力で、アズラーイールの張った結界は、かき消された。

「お前、いつの間にそんな力を!」

「人柱ですよ、山下を使いました」

「そんなことをすれば、あいつは今頃、意識を失って倒れているか、ヘタしたら、死んでるぞ!」

「や、山下さんが?」

涼介が、薄目を開けた。

「獅子丸さま、涼介にかける呪いは、そんな一般的な、魔界の教科書通りではいけません。これだから、本ばかり読んでいてはダメだと言われるのです」

スヱは、その両腕で魔方陣を組んだ。

「ご存じなかったでしょう? あなたがその男と遊んでいる間に、私が何をしていたのかを」

目の前に、山下が姿を現した。

目が、完全に死んでいる。

こいつは、スヱに憑依された、もはや抜け殻だ。