「俺はお前を助けた。分かるだろ? お前の命を、俺は救った。あの天使がお前を本当に助けるかどうか、自分の目で確かめるといい。その上でもう一度聞こう、お前が本当に契約を交わしたいのは、どちらなのかということを」

「俺は知ってるんだよ、獅子丸。それはお前が見せる幻覚で、本当ではないってことを」

俺は涼介に、呪いをかけた。

悪魔の呪いだ。

涼介の体は見る間に年老い、全身の皮膚はしわがれ、腰は曲がった。

やせ細り、立つ足がその体重を支えきれずに、震えている。

やがて全身の皮膚が真っ赤に腫れ上がったかと思うと、そこから体液が染み出し、ただれ始めた。

大量のウジが湧き、腐った肉はそげ落ちる。

涼介は、地に倒れこんだ。

髪は抜け、目も見えない。

まるで餓鬼だ。

耳だけは俺の声が聞こえるように、聴覚を残してある。

「この苦しみが、お前の命の尽きるまで、永遠に続くんだ。今すぐ解いて欲しければ、俺と契約を交わせ」

「もう残り短い命と知ったあとで、どうしてそんな誘惑に負けると思う?」

涼介は微笑んだ。その骨と皮だけになった醜い手で、俺を探し宙をさまよう。

「今の俺は、獅子丸の救った命だ。お前の好きにすればいい。ありがとう。感謝してるよ。君が来てくれたおかげで、俺の最期の数ヶ月は楽しかった。獅子丸、俺の怒りや憎しみ、苦しみ、悲しみを忘れさせてくれたのは、君が来てくれたからだ」

涼介の口から、どす黒い血がどっとあふれ出た。

それにむせて、咳き込んでいる。

「俺からは、魂は、あげられないけど、その代わりに、違う大切なものをあげる。それは多分、君が一番、本当に欲しいと思っているものだ」

涼介の魂に、再び黒い影が差した。

これは俺の呪いなんかじゃない。

本物の、魂の寿命だ。

「涼介!」

伸ばされた手を、俺はつかんだ。

それをつかめたのは、涼介自身が、俺を求めていたから。