店内はアンティークのインテリアで統一されていて、上品な中世のヨーロッパの雰囲気を漂わせている。

寡黙を通すナイスミドルのマスターはまるで執事のような雰囲気をしたイケメンだし、トオル自身も含めここに通うアルバイトはみな揃ってビジュアルがいい。

食事のメニューは千五百円の"おまかせディナー"しかないが、とても美味しいということもあって、ディナー目当ての女性のひとり客が結構いる。

ローズさんもそのひとり。
彼女はトオルがこの店でバイトを始める前からの常連だ。


カランカランとドアベルが重たい音を鳴らし、二人目の客を迎えた。
「いらっしゃいませ」

無表情のまま入ってくるこの客は高校生の男の子。
髪は少し茶髪。トオルの身長は180センチだが彼もほぼ同じくらい。
スラリとしていていつもあちこち破けているヨレヨレのダメージジーンズを履いている。

彼の定位置は入口近くのカウンター席。
未成年なので酒を飲みに来るわけではなく、彼もまた食事をしにくる。ディナーにつくはずのグラスワインはノンアルコールのソフトドリンクだ。

「おまかせディナー」
いつものように座るとすぐ彼はそう言って背中を丸め、スマートホンを見つめる。

トオルがこの店に出勤する頃、制服姿の彼が、店の斜向かいにあるマンションに入っていく姿を時々見かける。

そのマンションに住んでいるのだろう。
裕福な家の子に違いないが、想像するに、彼は独り暮らしなのではないだろうかと思う。

トオルは彼を "少年"と呼ぶ。