彼女が手にしているは、深紅の薔薇の花束。その花束が放つ香りだった。
常連客の多くがそうであるように、彼女が座る位置も決まっている。
最奥の小さなテーブル席。
そこで奥の壁に向かって座った彼女は、壁に立て掛けてある額縁の中の深紅の薔薇を見つめる。それが彼女の習慣らしい。
トオルは、水の入ったグラスをトレイに載せて、いつものように注文を聞きに行った。
「おまかせディナーをお願いします」
ご注文は?と聞く前に彼女はそう告げる。
「かしこまりました」
深紅の薔薇に魅せられた綺麗な女性。
――ローズさん。
トオルは密かに彼女をそう呼んでいる。
大学生のトオルがこの店で働くのは週に三日程度。
基本的には水曜から金曜の夕方六時から深夜二時まで。時給は千五百円とそう悪くはないし店は小さいので目まぐるしく忙しいなんてことも滅多にない。
マスターの亮一は嫌みのない優しい感じのいい人だし、食材が残った時は料理を作って帰りに持たせてくれたりする。
もちろん仕事前に出るまかないは絶品だ。
その一つだけでも、ひとり暮らしの学生にとっては、またとないバイト先といえた。
常連客の多くがそうであるように、彼女が座る位置も決まっている。
最奥の小さなテーブル席。
そこで奥の壁に向かって座った彼女は、壁に立て掛けてある額縁の中の深紅の薔薇を見つめる。それが彼女の習慣らしい。
トオルは、水の入ったグラスをトレイに載せて、いつものように注文を聞きに行った。
「おまかせディナーをお願いします」
ご注文は?と聞く前に彼女はそう告げる。
「かしこまりました」
深紅の薔薇に魅せられた綺麗な女性。
――ローズさん。
トオルは密かに彼女をそう呼んでいる。
大学生のトオルがこの店で働くのは週に三日程度。
基本的には水曜から金曜の夕方六時から深夜二時まで。時給は千五百円とそう悪くはないし店は小さいので目まぐるしく忙しいなんてことも滅多にない。
マスターの亮一は嫌みのない優しい感じのいい人だし、食材が残った時は料理を作って帰りに持たせてくれたりする。
もちろん仕事前に出るまかないは絶品だ。
その一つだけでも、ひとり暮らしの学生にとっては、またとないバイト先といえた。