トオルは立ち上がり、顎を前に出すようにしてひょこっと頭を下げた。
「どーも、ごくろうさまです」

その仕草はいかにも今どきの若者らしい。社会人では通用しないかもしれないが、少年らしさが残るトオルがそうすると人懐っこい可愛さが引き立って、むしろ好感がもてた。

「そうでしたか、それは失礼」
年かさの警察官が失言を誤魔化すように顔を歪め、ポリポリと頭を掻き、言い訳がましく言葉を添えた。
「よく似ていらっしゃるので」


整髪剤ですっきりと整えられた髪に涼やかな目元をしたマスターの亮一は四十代半ば。

アルバイトのトオルは大学二年生。ふわふわした明るい髪がかかっている目元はほんの少し釣り目で、意志が強そうに輝いているが、ふたりとも同じように鼻筋が通りすっきりとした顔立ちの、誰の目にもわかりやすい美形だった。

亮一もトオルも背が高い。
プレスされた真っ白シャツに臙脂のネクタイをして黒いベストというユニフォームが、スラリとしている体形によく似合っている。

警察官はふたりともスマートとは言い難い。
いずれも武骨な風貌なので、自分たちとは対照的なふたりに面食らったのだろう。特に若いほうの警察官は、トオルが立ち上がると驚いたように顎を引いた。

「おふたりとも芸能人のようにイケメンですねぇ、さぞかし女性にモテるでしょう」