「――トオル、お前の字、俺と同じなのか?」
履歴書にはトオルとカタカナで書いてあった。最近はふりがながないと読めない名前も多いので、むしろわかりやすくていいと深く考えずにいた。
「マスターが父親なんだろ?俺の。トオルの字は、亮一の亮と同じだもんな。父親の名前から取ったって母さんが言ってたし」
「小夜は?」
「一年前亡くなったよ」
トオルはさっきも母は亡くなったといっていた。
――小夜。
「マスター? ちょ、大丈夫?」
次の日、『執事のシャルール』には臨時休業を知らせる紙が貼られた。
トオルは亮一と新幹線の中にいた。
亮一は、元妻の墓参りをすると言ってきかないからだ。
なんだか心配で、店じまいをしたあと亮一の部屋までトオルは付いていった。
亮一の部屋は、スッキリとしていて女性の影もない。
もしかすると彼はまだトオルの母のことを忘れられずにいるのだろうか?
そんなことを思いながら、亮一のベッドでトオルは寝た。
ベッドでなくて良かったのに、自分はソファでいいという亮一に押し切られたのである。
父親のことは、都内の大学に行くことになった時はじめて母から聞いた。
『あなたの父親に会いたい?』