「警察に行こうって説得して、出前を食べたあと三人でそこの交番に行ったんだよ。そしたら、そこにいた警察官が教えてくれた。意識を取り戻した男が、自分が悪いんだって証言したらしい」

「間男の罪悪感とかそういうことか?」
「違うよ。実は本当の父親だってオチ。母親は再婚で、まだ子供だった彼は男が本当の父親だとは知らなかったんだって」

「薔薇の花束は?」
「本人はただなんとなく買ったって言ってたらしいけど、少年の話では母親が昨日誕生日だったから、もしかすると母親に花束を渡そうとしたのかもしれないって、母親が好きなのは赤い薔薇だからってさ」

「それで、どうなるんだ?」
「わからないけど、でも交番のお巡りさんは事情が事情だしまだ未成年だから、大事にはならないんじゃないかってさ、なにしろ本人が自分のせいだって言ってるし」

「――そうか」
後悔先に立たず。
色々な意味で……。
そんな言葉が亮一の頭に浮かんだ。


「交番からの帰り道、あいつは両親の他に父親がもうひとりできていいよなって少年が言っていたな」

「彼はやっぱりひとり暮らしなのか?」
「ああ」

「親は?」
「離婚して父親に育てられたらしい。でも父親はなんかのバイヤーだかで海外に行くことが多くて中学までは父親の実家で祖父母と暮らしていたそうだ」

トオルは亮一を振り返った。

「マスターは? 子供はいないの?」