「――昨日、その先の路地で男性に声をかけられたんです。『必要なくなったので、もらってくれませんか?』って薔薇を」
「昨夜お客さまが持っていた花束?」
彼女はええ、と頷く。
「様子が少し変だとは思ったんですけれど綺麗な薔薇だったし、つい、受け取ったんです。でも、ここに来てから包んであるフィルムになにか付いているのに気づいて、この店は暗いのでよくわからなかったんですけれど、家で見たら……」
――血?
これから食事をするお客様に向かって "血"という言葉を発するのはも憚られた。そう思ったのはトオルだけでなく彼女も同じなのかもしれない。それ以上は口ごもり、俯いた。
「大丈夫ですよ、怪我はしていたらしいですが、たいした事件ではないそうですから」
「えっ?! そうなんですかっ?」
「はい。ついさっきそう聞きました。通りの角にある交番のお巡りさんに。だから大丈夫ですよ心配しなくても」
弾けたように顔を上げた彼女は、ホッとしたように大きく息を吐いて目を瞑った。
「よかったぁ……」
よほど気に病んでいたのだろう。次に顔を上げた時、彼女の瞳は潤んでいた。
でも、亮一は心で首を傾げた。
――たいした事件ではない?
二人組の警察官はそんなことは言っていなかった。むしろ話が聞けないくらいの重体なのかと思ったはずだったが。トオルはなにを知り、そんな断定的なことを言うのか。
「昨夜お客さまが持っていた花束?」
彼女はええ、と頷く。
「様子が少し変だとは思ったんですけれど綺麗な薔薇だったし、つい、受け取ったんです。でも、ここに来てから包んであるフィルムになにか付いているのに気づいて、この店は暗いのでよくわからなかったんですけれど、家で見たら……」
――血?
これから食事をするお客様に向かって "血"という言葉を発するのはも憚られた。そう思ったのはトオルだけでなく彼女も同じなのかもしれない。それ以上は口ごもり、俯いた。
「大丈夫ですよ、怪我はしていたらしいですが、たいした事件ではないそうですから」
「えっ?! そうなんですかっ?」
「はい。ついさっきそう聞きました。通りの角にある交番のお巡りさんに。だから大丈夫ですよ心配しなくても」
弾けたように顔を上げた彼女は、ホッとしたように大きく息を吐いて目を瞑った。
「よかったぁ……」
よほど気に病んでいたのだろう。次に顔を上げた時、彼女の瞳は潤んでいた。
でも、亮一は心で首を傾げた。
――たいした事件ではない?
二人組の警察官はそんなことは言っていなかった。むしろ話が聞けないくらいの重体なのかと思ったはずだったが。トオルはなにを知り、そんな断定的なことを言うのか。