「マスター、さっき息子さんって言われてムッとしてたでしょ」
クスクスとトオルが笑う。

「やっぱ、マスターと俺、似てるんですねー」
「どこがだよ」

「マスター血液型は?」
「O型」
「へえー俺B。でも母親がBだからアリだよなー。とーさん」

コーヒーカップを洗いながらトオルはニヤニヤと振り返るが、亮一は相手にする気はないらしい。
手早く料理を容器に詰めると、トオルに差し出した。

「メインはきのこと鶏肉のクリーム煮、白菜のカレー風味のサラダ、ブロッコリーとベーコンのガーリック炒め。くだらないこと言ってないで、ほら。料金は千五百円。出前は今回限りだって言ってこいよ」
「はぁーい」


トオルを見送ると、亮一は溜め息をついた。

もし自分が二十五歳で父親になっていれば、トオルの歳の子供がいてもおかしくない。自分はそういう歳なのだ。
考えてみればそうなのだと納得するものの、釈然とはしなかった。

ここで雇っているアルバイトは大学生ばかり。
でも、彼らを弟のように思う事はあっても、子供だと思って接したことは一度もなかった。

――はぁ。
なんとなく重たいため息が出た。


亮一は独身である。
いま、恋人はいない。過去にはいたりいなかったりだが、年単位で長く付き合ったことはない。

随分前に結婚した経験はある。
ただ一度のその経験は、亮一の心に深い傷を残した。