「いや、ただ汚れていただけだろ? 俺の勘違いだな。夢だ、あれはきっと白昼夢」

「ローズさん、確定じゃん」


ふいにルルルと店の電話が鳴った。
「はい、『執事のシャルール』です」
電話に出たトオルは、「少々お待ちください」と答えて保留ボタンを押した。

「少年から、『なんでもいいんで、二人分の出前いいですか。すぐ向かいのマンションなんスけど』って。どうします?」

「ええー?」
『執事のシャルール』では基本的に出前は扱っていない。なのにトオルは亮一返事を待たずに、出前を受けて切った。

「俺、持っていきますよ」
「お前なぁ」

「マスターは心配じゃないんですか? 雨の日も槍の日も毎日のように来てくれる常連さんが、目と鼻の先のここまで来れない、それでも他の宅配じゃなくてマスターの料理が食べたいって言ってくれるのに」

まだまだ続きそうなトオルの勢いに、亮一は音を上げた。
「わかった。わかった」
どうかしたのかと気になっているのは事実だし、配達先もすぐ目の前だ。毎日足繁く通ってくれる常連客の頼みを渋る理由は見あたらない。
棚の奥から使い捨て容器を取り出しながら、ポツリと言った。

「少年、夕べここで食べている途中にスマホが鳴って、慌てて食べて帰ったな……」
「ああ、確かに」

――その電話が事件と関係があると疑うのか考え過ぎか。