「そこまで知ってるってことは、あいつらのやっていることを見つけたんですね。まさか証拠もつかんでるんでしょ? しかるべきところに突き出せば、全員……」
「やはり、あなたの目的はそちらだったんですね」
〝声〟はいたって平静な響きのまま、突然冷ややかなトーンを帯びた。正面の席の彼が、息をのんだのがわかる。そして始まる、机を指で叩く音。コツ、コツ。
「どういう、意味ですか。目的は、パワハラ被害から抜け出すことで」
「あいにく私どもの調査では、そういった事実は見つけられませんでした」
「調べが足りないんじゃ……」
「いいえ、そもそもあなたはCと、メールも電話も、もちろん対面での会話も、ほとんどしたことがないはずです」
 私の前の仕切り板が揺れた。まるで彼の心の動揺を映したみたいに。
「あなたは我々にCの周辺を調べさせ、彼のコンプライアンス違反行為を見つけさせようとした。そうすれば我々が告発すると考えたんでしょう。彼の命令を受けて動いている、あなたのご同期の存在も、一緒に表沙汰になることを期待して」
〝第二総務部〟の声が、静かに、だけどはっきり告げる。
「そうですよね、販売促進部促進課、三居さん」

 三日間晴れ間が続き、すわ梅雨明けかという期待がぬか喜びに終わった七月頭。
「やったー、やりました、昇進です。今日から主任!」
 種原さんがA5サイズの賞状のようなものを掲げて宣伝課にやってきた。
 そういう話はどこからか回ってくるものなので、みんなはもう知っており、「よかったねー」と手を叩いて笑顔で迎える。
「加具山さんのおかげです、お礼にチューします」
「いいよ、やめて! 俺のおかげでもないし!」
 昇進した人がいるということは、昇進できなかった人もいるということだ。だけど種原さんは悪びれず、気の済むまでお祝いの言葉をたかってから帰っていった。
「無邪気なんだか、あれも計算なんだか」
「いっそあのくらいやってくれたほうが、ダメだったほうも気が楽かな」
 私の島の先輩たちが会話している。
 彼らは声をひそめ、販売促進部のほうをちらっと見やった。
「きついよね、同じ部署の同期で差がつくって」
「相当きついよ。まあ腐らないといいな、三居くん」
 座ったままでは、ここから販売促進部は人に隠れてしまって見えない。