地下のファストフード店は、夕方だというのにびっしり人が詰まっている。
 とくにシングルシートエリアは圧巻だ。トレイが載るぎりぎりの大きさのテーブルと、一度座ったら身動きもとれないようなジャストサイズのスツールで構成された極小のブースが向かいあっている。
 もちろんブースの間は板で仕切られていて、席についてしまえば隣も目の前も見えない。目隠し板の不思議な効果で、すぐそこに人がいることなんて忘れてしまう。
 仕切りの板を取っ払ったら、互いに自分たちがいかに至近距離で食事をしていたか知ってぎょっとするだろう。
 私はそのブースのひとつに座り、食事をしている……ふりをしている。
 対面のブースに手帳を置き、使用中に見せかけ、だれも座らせないことが私の仕事だ。そしてタイミングよく手帳を取り除かなくてはならない。
「来たぞ」
 低めた声がした。私は腰を浮かせて手を伸ばし、手帳を取った。
 すぐに人がやってきた。軽く息を切らしている。スーツ姿の男性だ。
 顔を上げたら目が合ってしまうので、私は食事に専念するふりだ。しばらくためらった末に、彼はおそるおそるといったしぐさで私の正面に腰を下ろした。
「こんにちは、第二総務部です」
 どこからか声がした。私は知っているので、彼の左隣のブースからの声だとわかるけれど、仕切り板がうまい具合に反響して、彼自身にはそこまではわからない。その証拠に彼は、ダメと言われているにもかかわらず、身体をそっとずらし、私のブースをのぞき見た。
 本を読みながらチーズバーガーを食べている私を見て、落胆しているのがわかる。そうだろう、聞こえてきた声はあきらかに男性で、私はどう見ても女だ。
「まずはご依頼ありがとうございました。調査に時間をいただき、失礼しました」
 再び声がする。話しているのは阿形さんだ。
「で……なにがわかったんです。助けてくれるんですよね」
「その前に、ちょっとお話をしましょうか」
 急にくだけた口調になった相手に、〝依頼人〟が苛立ち、爪先が仕切りを蹴った。
「こっちは急いでるんですよ!」
「場所が場所ですから、登場人物をC、およびUと呼びましょう。だれのことだかはわかりますよね」
「U……」
 宇和治社長のUだ。彼は一転して、はしゃいだ声を出した。