阿形さんは立ち上がると、「戻ろ」と独り言みたいにつぶやいて、PCをたたんで小脇に抱えた。
「戻る、とは……」
「柊木さんたちに合流する。途中退場とか、やっぱ性に合わない」
 ふてくされたような声に、笑ってしまう。じろっとにらまれ、慌てて顔を引きしめ、それから「あの」と声をかけた。
 ドア横のモニターで、外にだれもいないか確認していた阿形さんが振り返る。
「私、依頼人に心当たりがあります」