楕円の会議机に開いたPCを置き、椅子に座る。私も隣の椅子を引っ張ってきて、彼の隣の、画面をのぞける位置に陣取った。
 見たことのないアプリケーションが表示されている。察するに、PCから電話をかけられるソフトだろう。
 阿形さんはふと思いついたように、画面の端のほうに動画のウィンドウを小さく表示させた。映っているのは、会社の廊下だ。
 これはなんですか、と聞きたかったけれど、こらえた。阿形さんがPCの操作に神経を集中しているのは、見ていればわかる。邪魔をしたくない。
 携帯のコールマークのようなものが震えはじめた。呼び出し中だ。マークの下で秒数のカウンターが回っている。
 十秒を過ぎたころ、マークが赤から緑に変わった。PCからかすかに、ノイズのような環境音が聞こえてくる。
『……はい』
「第二総務部です」
 息を殺す私の隣で、阿形さんは冷静に応対する。
「メッセージをありがとうございました。ご用件をどうぞ」
 その抑制のきいた声が、かつて電話越しに聞いた柊木さんの声にそっくりなことに気づいた。声を変えているわけでもないのに、受ける印象がよく似ている。
 きっとこれが〝第二総務部〟の声なんだろう。
 佐行さんも電話対応のときは、こんな声を出すんだろうか。聞きたい。
『お願いした件、まだですか』
「申し上げましたとおり、調査が終了し次第ご連絡します」
『いつまでやってんだよ……!』
 不安そうだった声が、急に神経質に尖った。こちらを責めたというより、激情が口に出てしまったという感じだ。
 コツ、コツ、と音がする。足音かなと思ったんだけれど、どうも違う気がして、耳を澄ました。コツ、コツ。
「調査が終了し次第ご連絡します」
 返事はなく、通話は向こうから切られた。
 ふーっとどちらからともなく、詰めていた息を吐く。阿形さんは椅子の上でずるずると姿勢を崩し、片手を伸ばしてキーボードを叩いた。
 電話のアプリケーションとカメラ映像が、どちらも消える。
「どうして映像を見てたんですか?」
「仕事と関係ない電話するときって、廊下に出たりするじゃん」
 そこが映るのを狙ったのか、なるほど!
「そう都合よくはいかないな。映ったところであの画質じゃ、顔の判別がつくともかぎらないし、まあそれはいいや」