ビルの地下にはファストフード店がある。そこでぱぱっと済まそうと決めた。
 ビジネスパーソン向けに絞った店内は、超ミニマルなシングルシートがずらっと並んでいて、最高峰のスペース効率を実現している。
 私はもう少しゆったり食べたかったので、数少ないテーブル席を確保した。チーズバーガーにかぶりついたとき、正面の椅子をだれかが引いた。
「や、ここいい?」
 テイクアウトの紙袋を手に微笑んでいるのは、蔵寄さんだ。
「もちろんです」
「ありがと。助かったよ、場所をさがしてたんだ、席では食べられないし」
「わかります」
 なにせ近いので、ここで買って社内で食べる人は多いのだ。だけどファストフードの匂いはなぜかとても強い。不快じゃないけれど、とにかく強い。
 蔵寄さんは紙袋からボリュームのあるバーガーを取り出し、紙をむいてばくっとかじった。そのままCMにできそうなくらいビジュアルがいい。
 パパかあ……とぶり返してくる。
「例の件、どう?」
 さりげない小声で、彼が尋ねた。
「せっかく仲間に入れてもらったんですが、私は今回は、お役に立てないのかなと思ってます。なんの情報もつかめてなくて」
「それならそれでいいんだよ。生駒さんの周囲に情報がないっていうのも、ひとつの情報なんだ」
 まさに目からうろこが落ちる思いだった。なるほど。
「そちらはどうですか?」
「うん……、東京が絡んできたことで、話が僕の職掌範囲に入ってきたから、ちょこちょこあちこちをつついてはいるんだけどね」
 さすが男の人、行儀は悪くないのに小気味いい食べっぷりで、あっという間に分厚いバーガーが半分なくなる。彼は紙袋から、Lサイズのポテトを取り出した。
「社長はシロかもしれない」
「えっ? でも協約にかかわっていないはずはないんですよね?」
 ポテトをかじりながら、「それは、そう」と蔵寄さんがうなずく。
「協約の数字って、ものすごくセンシティブなんだ。特約店は、ほかの特約店の数字は知らないし、僕たちも絶対に漏らさない。メーカーとディーラーの利益に直結する、いわばトップシークレットなんだよ」
「そうなんですか」
「そう。半期に一度、すべての特約店と交渉してベースとなる数字をつくる。さらに毎月、販売実績をもとに細かく見直す。工場の生産台数とのバランスも取らないといけない。協約の管理って、かなり神経を使う仕事なんだ」