調査員もこれほどの根気、アイデア、実行力を求められるのだ。副本部長の発した〝協約〟という言葉から、数字の操作を連想できるのもさすが。参考にしなきゃ。
「本業優先だって言ってるだろう、大丈夫だったのか」
 渋い声を出す柊木さんの肩を、蔵寄さんがぽんと叩いた。
「大丈夫だよ。それより、仲鉢さんと宇和治社長がこの件に絡んでるっていう証拠がまだないんだ。昨日の発言からして、九十九パーセント絡んでるとは思うけど」
「任せろ、相手の目星がつけばこっちのものだ」
 ふと、それまでだまって聞いていた佐行さんが口を開いた。
「なあ阿形、宇和治って……」
 言いかけた口元を、ばちんと平手で阿形さんに叩かれ、「いて!」と悲鳴をあげる。
「お前! 暴力的なんだよ!」
「うるさい」
 乱暴な口をききながらも、阿形さんはなぜかうつむき、ぐっとなにかをこらえているみたいに唇を噛んでいる。
 柊木さんが「阿形」と静かに声をかけた。
「この先はお前、参加しなくていいぞ」
 内容に反して、声は冷たくはない。排除というより、彼なりの気づかいに聞こえた。
 うつむいたまま、阿形さんが絞り出すように言う。
「……そうさせてもらいます」
 そのままだれとも目を合わせずに、彼は部屋を出ていった。
「あの……」
 なにかフォローしなくていいんだろうか。状況がわからずおろおろする私に、佐行さんが「あー、ごめんね」と苦笑した。
「びっくりさせたよね。あのねえ、昔の話なんだけど、あいつ自身が、いわゆるパワハラで、けっこうしんどい思いをしててさ」
「え……」
「セールス時代ね。相手は当時の店長で……」
 彼の視線を受けて、柊木さんが続きを継ぐ。
「宇和治勝春(かつはる)。今の社長だ」
 佐行さんは「やっぱり、ですよね」と首のうしろをかきながら嘆息した。
「なーんか名前に聞きおぼえがあったんだよなー……」
「あの、阿形さんが……って、なんで」
「メーカーからの出向者はなにかと目立つから。いい見せしめ役になっちゃったみたいで。あいつはそのへん、あんまり話さないけどね」
「リードマンとして、耳が痛いよ」
 責任を感じるのか、蔵寄さんは沈痛な面持ちだ。
「店舗でそういうことが起こっていないか見るのも、俺たちの仕事なのに」
「それで、阿形さんはその後、どうしたんですか?」