「簡単です。本人たちに聞くんです」
「どうやって?」
 汚さないよう、メモ用紙をそっとポケットにしまう。不思議そうに首をかしげている蔵寄さんにきっぱりと告げた。
「もう一度伝言板を使って、依頼をします」

 次の朝、私はいつもより一本早い電車に乗って出勤した。始業前に依頼をしようと考えたからだ。
 なんとなく、一回目と時間をずらしたい気がした。パターンを変えたほうが、第二総務部の反応にも違いが出て、より多くのデータが集まるんじゃないだろうか。
 駅を出て地下街を通り、会社のビルに入ってそのまま伝言板に直行する。出勤ラッシュはまだ始まっておらず、まわりに人影はない。
 伝言板はきれいに拭かれ、私の書いた文字の痕跡はなかった。チョークを手に取り、じっと観察する。ぼろぼろの伝言板に似つかわしくない、ぴかぴかのチョーク。
 この間も、このチョークを見たとき、第二総務部はただの都市伝説じゃないと、はっきり感じたのだった。
 だって、だれかがここの手入れをしている。
 大きく息を吸いこみ、吐いた。伝言板の中央に、一文字一文字丁寧に書く。
【第二総務部、お仕事です! 内線六四〇七】
 きっと、またなにかが起こる。

「生駒ちゃん、内線だよー」
 始業から一時間ほどデスクで仕事をしたところで、女性の先輩に声をかけられ、びくっとした。
「はいっ」
「三番!」
 ドキドキしながら自席の固定電話の受話器を取り上げ、内線ボタンの三番を押す。
「お電話代わりました、生駒です」
『おはようございます、ティー・ティーです!』
 第二総務部じゃなかった。
 ほっと緊張が解けるのを感じ、「今行きます」と返事をして席を立った。フロアのドアはオートロックで、廊下側からは社員証がないと開かない。
 ドアを開けると、ドリンクサービス会社であるティー・ティーの営業さんが笑顔で立っていた。定期的にドリップコーヒーやティーバッグの補充に来てくれる。
「先日追加注文いただいたぶんをお届けに来ました」
「ありがとうございます、お願いします」
「はい、失礼します」
 私はドアを押さえ、大きな四角いバッグを斜めにかけた営業さんが通り抜けるのを見守ってから自席に戻った。おなじみの営業さんなので、もうお任せなのだ。