「……意識を改めます」
「そうして。あと収穫はたぶん、あった」
「蔵寄さんと阿形さん、なにか気づいてましたよね。なんですか?」
「ちょっと調べてから、全員に報告する」
「全員っていうのは、柊木さんと佐行さんですか」
 自分の手の爪を見ながら歩いていた阿形さんが、少しだまった。
「……油断できないな。柊木さんが見込んだだけあるね」
「ヤクモさんていうのは、どなたですか?」
 何度か柊木さんの口から出た名前だ。内線表やメールアドレスで調べてみても、この会社にヤクモという苗字の人はいなかった。
 察するに、第二総務部の部長的な人だろうとは思うのだけれども。
 ささくれでもあったのか、阿形さんが爪のつけねをちょっとかんだ。
「時期が来たら柊木さんが説明するだろ。あと今回の件でいえば、〝全員〟にはあんたと岳人さんも入ってる」
「光栄です!」
 書き換えてもらった社員証は、まだ一度も使ったことがない。報告すべきことがないのに、あの部屋に行くわけにもいかなかったからだ。
「そうと決まれば、なにがなんでも材料をさがしに……」
「先走るなって」
「でも急がなかったら、そのぶん依頼者がつらい思いをするじゃないですか」
 阿形さんは答えず、くんくんとパーカーの袖のにおいをかいでいる。
「ヤニくさ。最悪」
「阿形さんも吸うの、意外でした」
「そりゃ意外だろうね、吸わないもん」
「でも、さっき……」
 小バカにするような目つきをもらってしまった。
「あそこ、喫煙席だったじゃん。わざわざ女づれでそこ座っといて、吸う気配もなかったらおかしいだろ」
 言われてみれば、そのとおりだ……。
 もしかしたら柊木さんも、似たようなものなのかもしれない。必要に応じて、喫煙者にも非喫煙者にもなるんじゃないだろうか。この人たちは日ごろからそんなふうに、〝第二総務部〟として生きているのだ。ミーハーな自分が恥ずかしくなる。
「がんばります、私」
「普通でいいよ。空回りされると厄介だ」
「どこかで泣いてる人を救うのが第二総務部なんじゃないんですか?」
 阿形さんの言いかたが、あまりに冷たいので、思わず言い返した。彼が横目で私をにらむ。色白の顔と首筋が、ネオンの光を浴びて夜の街に浮かび上がる。
「今回さあ、依頼人がだれだかわからないんだよね」
「え……?」
 彼は目線を進行方向に戻した。逆光の中、瞳がきらっと光る。