そしてそんなにひっきりなしという感じではないものの、煙草を吸っている!
 つい凝視してしまい、慌てて顔をそむけた。そむけた先で、蔵寄さんと目が合った。幹事である蔵寄さんはお座敷の上がり口に近い場所に座っている。私は副本部長の隣なので、つまり上座だ。
 蔵寄さんは不自然でない程度に、静かに片目をつぶってみせた。そうか、個室にしなかった理由は、ここにもあるのかもしれない。
 副本部長を観察するためだろう、阿形さんは下座側に座っているため、私からよく見える。会社では見たこともないようなはつらつとした笑みを浮かべていて別人だ。演技派だったらしい。
「生駒さんは、仕事はなにをしてるの」
「SPツールの制作を担当してます。一営さんにもよくお世話になってます」
 恰幅(かっぷく)のいい副本部長は、食べ物よりお酒優先で摂取しており、健康的な色の肌が赤褐色に染まっている。
 彼はお猪口に口をつけ、くいとあおった。
「ああ、SPツールね。あれは大事だね」
 なんておざなりなコメントだ。しかも私は、過去の飲み会でも同じことを彼に聞かれ、説明し、同じコメントをもらったことがある。
 偉い人ってこういうもの、なんてくくったら、ほかの偉い人に失礼だろう。
「アマ東さんがつくるDMを参考にさせてもらったりもします」
「メーカーが販社を参考にしてどうするのよ、きみ」
 あきれ声を出しつつ、まんざらでもなさそうだ。
 彼が社長を務めていたアマナ東京は、国内最大の特約店だけあって、自分たちでSPツールを制作できるだけの予算を持っている。私のつくったものを買うのは、全国共通のキャンペーンを打ったりするときだけだ。
「目(め)黒(ぐろ)の店舗、改装するらしいじゃないですか。アマ東の勢いは止まりませんね」
 地方の特約店の社長をしている人が、羨望を隠しもせず言う。なぜか現役の東京担当である蔵寄さんは称賛の対象にはならず、副本部長だけがふふんと笑う。
 まあ、営業部内はこういう関係なのかもしれない。特約店がどんなに売れていようが、それが現リードマンの功績とはかぎらない。
「俺のあとに、有能な男を社長に据えてきたしな。俺も今の立場からなら協約にも手を出せる。古巣は大事にしてなんぼだよ」
「さすがですねえ」