「聞いてみるけど、確定した情報は出ないと思う。雑誌社さんの都合でよろしくってお願いしてるだけだから、無理も言えない。そこは勘弁してね」
「わかってます! ですんで、もらえる情報だけでもいいので!」
 ツンツン立った短い髪は、ちょっと明るめに染めてある。途方に暮れているように見えて、そんな状況をわりと楽しんでいるようにも思える。
 下手に出るわりに押しが強くて、でもそれを相手に許させてしまう愛(あい)嬌(きょう)がある。いかにも元セールスマンって感じだ。
 副本部長は、彼のそういう打たれ強さや、ちゃっかりしたところを見抜いて、無茶な注文を押しつけたに違いない。
 第二総務部にパワハラの相談をしたのは、ひょっとして彼なのではとも思ったのだけれど、この感じだと違う気がする。
 国内営業のだれなのか、柊木さんに聞けばよかった。まあ、いち調査員にそこまで情報を与えない可能性もある。知っておくべきなら教えてくれただろうし。
「じゃ、報告があったら連絡するよ」
「ありがとうございます!」
 種原さんが威勢よく頭を下げた。
 私はそれとなく時計を確認し、手帳と適当な紙資料を持って席を立つ。そして販売促進部のほうへ戻る種原さんのあとをついて歩いた。
 不自然にならないよう携帯をいじりながら、彼の様子を観察する。もしかしたらものすごい二面性があって、人目のないところではこの無理難題にめちゃくちゃ悩んでいたりするかもしれないと思ったからだ。
 そんなことはまったくなかった。彼は鼻歌を歌いながら携帯を取り出し、なじみの販売店のセールスマンらしき人と電話しはじめた。
「種原です! すみません、うっかり十二か月点検の時期過ぎちゃって。今混んでます? 来週あたりに入庫してもいっすか?」
 たぶん販売促進部で持っている社有車の話だ。うーん、なんというか、まったく闇とか陰とかを感じない。第二総務部に相談するタイプとは思えない。
 種原さんはまっすぐ促進課に戻り、電話をしながら自席にどすんと座った。にぎやかなのが戻ってきたせいか、隣の席の三(みつ)居(い)さんが眉をひそめたのが見える。種原さんの同期で、彼もまた固定電話で電話中だ。