「蔵寄さんが、私をあそこにつれてったんですね」
 彼はじりじりと返事を待つ私をよそに、ゆっくり一服してからまた言った。
「そうかもしれないな」
 もっとほめてくれてもいいのに!
 まあ、ここまで手の内をさらしてもらってから気づいたんじゃ、ほめるに値しないのもわかる。自分でも、もっとはやく気づきたかったと思うし。
 最初から柊木さんの手のひらの上だったのだ。あーあ。
「ティー・ティーの人が親睦会費を持ち出したと気づいたのは、カメラの映像を見ていたからですか?」
「そう。俺が見ていたわけじゃないが」
「でも、見られるのは廊下に出てからの映像だけですよね? それだけでわかるものですか? まさか現金を手に持っていたわけでもないでしょうし」
「悪事を働いた、もしくは働くつもりの人間は、見ればわかるらしい。あのときも、なにをしたのかまではわからないが、なにかおかしいと感じたそうだ」
「入国審査官みたいですね」
「まさに入国審査官みたいな人間が見てたんだ」
 自分の眉根がぐっと寄るのを感じた。入国審査官みたいな人間……?
 入国審査官みたいな人間……入国審査官みたいな……。
 私、あのとき、なにか似たようなことを考えなかったっけ。第二総務部はきっと防犯カメラの映像を見ることができる人たちで、だから……。
「警備室!」
 つい大きな声を出した私に、柊木さんがびくっとした。
「私のあのときの推理、一部はあたってたんじゃないですか? 私、前に台車を押してエレベーターに乗ろうとしたら、乗った瞬間『業務用エレベーターを使ってください』ってアナウンスされたことがあります。警備室の人がいかに、防犯カメラの向こうで起こっていることに敏感か知ってます」
「それはいい経験をしたな」
「警備員にも協力者がいるんですね? 伝言板の前にだれかが来たときも、すぐに柊木さんたちに連絡が行くようになってるんでしょう」
 ぷかー、と憎たらしいほどのんきに煙を吐き出してみせる。くっそー。
「これで最後の謎も解けます。私が最初に伝言板にメッセージを書いたとき、なんで依頼する前に、柊木さんたちが依頼内容を知ってたのか」
 私は吸煙機の上に身体を乗り出す勢いでしゃべった。
「私、警備室でニソウのだれかが聞いてたって推理しましたよね。そうじゃない。警備室で、協力者である警備員さんが聞いてたんです! どうですか、これ!」