そうだろうなあ。今の一営でも、彼はかなり若い。当時は飛びぬけて若かったに違いない。
「大変だな、毎回きれいどころをつれてこいって言われるんだろ」
 柊木さんが同情的な声を出す。
 蔵寄さんは「ほんと時代錯誤だよな」と心底参っているようなため息をついた。
「来てくれる女性には、本当に申し訳ないと思ってるよ。せめてものって思いで、絶対に目を離さないようにはしてる」
「いつもはどういう方々にお声をかけるんですか?」
「秘書室とか、受付とか……、派遣さんとかかな」
 めちゃくちゃレベルが高いじゃないか……。
「今回、私で大丈夫でしょうか……」
 青くなる私に、「大丈夫だよ」と蔵寄さんはにっこりする。
「こんなに若い子珍しいし、生駒さん、引き出しが多くて話がおもしろいから、みんな喜んでくれると思う」
 望んでいたのと少し違う場所に太鼓判をおされた。
「がんばります」
「まだ日程調整中だから、追って連絡するね。今週か来週になるはず」
「もともとなんの予定もないですが、入っててもこじ開けます」
「ありがと。僕、打ちあわせだからもう行かないといけないんだけど……」
 蔵寄さんが腕時計と柊木さんを見比べる。あきらかに一緒に出ようと誘われたはずの柊木さんは、気づかぬふりでつんとしている。
 困った顔を向けられたので、大丈夫ですよ、という表情をつくって返した。
 蔵寄さんはうしろ髪を引かれた様子を見せつつ、「それじゃ」と出ていった。
 ふたりになった喫煙室に、しん、と沈黙が下りる。
 柊木さんは指の先に煙草を挟んで、たっぷり吸っては煙を吐き、味わっている。「あの」と声をかけると、目だけをちらっとこちらに向けた。
「私、謎がみっつあったんですよ。親睦会費の件で」
「ずいぶん懐かしい話だな」
「ひとつは解けたんです。二度目に伝言板を使ったときのこと」
 この人とゆっくり話せる機会なんて、次にいつ訪れるかわからない。私はここぞとばかり、頭の中にずっとあったことをぶちまけるつもりだった。
「私がなにも言わないうちから、柊木さんは私の依頼が、『第二総務部の正体を知りたい』だって知ってた。私と蔵寄さんの会話を聞いてたんでしょう? あのランチのとき、私たちの隣のテーブルにいたの、柊木さんですね」
 柊木さんは表情ひとつ変えず、「そうかもしれないな」と煙を吐く。