「自分ばっかりそういう態度で……。これじゃ、俺がお前の事情を勝手に話してるみたいじゃないか」
「事実、そうだろ」
「そうやって自分だけ謎めいたキャラでいるの、ずるいぞ!」
「ずるくてけっこう」
 柊木さんは短くなった煙草をくしゃっと灰皿でつぶし、青い箱から新しいのを取り出すと、ライターで火をつけた。
 ふっとだれもいない方向に煙を吐くと、「それより」と目線をはずしたまま言う。
「さっきの、彼女に話せよ」
「あっ、そうだった」
「なんですか?」
 私は反射的に、小脇に抱えていた手帳を開き、ペンを持った。「あのね」と蔵寄さんが、灰皿の上で煙草をトンと叩く。
 使っていないほうの腕は、腕組みをするみたいに身体に巻きつけている。ワイシャツとネクタイと煙草とすてきな顔面、これ以上の組みあわせはない。じつは妻子があるというのも、衝撃から立ち直ってみると、かえって趣深い気がしてくる。
「今度、仲鉢さんと飲むんだ。よかったら生駒さんもその席にと思って」
「えっ、いいんですか!」
「もちろんいいよ、っていうか、いわゆる〝若手女性枠〟みたいな感じになるから、それでもよければって、むしろこっちからお願いする立場なんだけど」
「かまいません、かまいません、全然」
 この男くさい業界に入ろうと思った時点で、そのへんは覚悟ができている。入ってみたら意外と頭の新しい人たちに囲まれて幸運だったけれど、たまにお酌は女の子がするもの、みたいな感覚の人もまだいる。でもたいして気にならない。
 この人はそういう人、と心のメモに記録するだけだ。
「すみません、私、ちっとも情報収集できてなくて。その席でがんばって、なにか役に立ちそうなことを聞き出してみせます」
「うん。困ってるかなと思って、声かけさせてもらった。僕も行くから、それとなくさぐってみよう」
 にこ、と蔵寄さんが柔らかく微笑む。
 優しいなあ、もう。こんな人が調査員として先輩にいてくれるなんて、幸せだ。
「何人くらいの飲み会ですか?」
「五人来られたらいいかなあってところかな。仲鉢さんが部長だったころの第一営業部のメンバーなんだ。今でも年に数回飲むんだよ。僕は一番下っ端」
「もしかして蔵寄さん、幹事?」
「持ち回りのはずなんだけど、気づくと僕がやってることが多いね」