という話をしたところ、「つまり、若い女性社員というだけでそばに呼ぶタイプの人なわけだ」と佐行さんが悩ましげな息をついた。
「つまり、そうです」
「まだ昭和を生きてるのかなー。業界自体が古いから、そういう人多いけどさ」
「特約店の社長をやってから、下品さに磨きがかかったって聞くよ」
 阿形さんの言葉に、なるほどね、と佐行さんがうなずく。
 ディーラーでセールスを終えてメーカーに戻ってきてからも、天名の社員は出世するごとに特約店へ出向する。今度は部長として、社長として。
 特約店の規模にもよるけれど、だいたい特約店社長を務めたら、帰任後に部長クラスの職に就くくらいの階級の段差がある。
「副本部長って、アマナ東京の社長だったんですよね?」
「そうだよ。第一営業部の部長からアマ東の社長になって、二年務めて戻ってきて、今はインダストリーズの副本部長」
「一営だったんですか」
 蔵寄さんのいる部署だ。副本部長が帰任したのは一年前だ。その二年前に一営の部長だったということは……。
 私の視線を受け、柊木さんがうなずいた。
「蔵寄は部長としての副本部長も知ってるし、社長としての副本部長も知ってる。当時から南関東担当のリードマンだったからな」
「密偵としては最適ですね」
「俺たちは今、副本部長のパワハラの証拠と、それをやめさせるだけの力のある材料をかき集めてる。パワハラの証拠はもう仕込み終わった。釣れるのを待つばかりだ。きみの任務は材料のほうだ、生駒調査員」
「はいっ。ようするに脅しのネタですね!」
「まあ……そうだ」
「承知しました!」
 私はやる気に満ち満ちた敬礼で返した。
 佐行さんが再び拍手を送ってくれた。