「営業部では、直接の被害はない?」
「あそこはみんな忙しいうえに、年次が高くタフな社員が多い。一番圧力をかけづらいタイプの部署なんだろう」
営業部?
「あの、もしかして、六階で柊木さんが話してたお相手、蔵寄さんですか」
阿形さんからコーヒーを受け取りながら、柊木さんが「そう」とうなずく。
「え、お知りあいですか? まさか蔵寄さんから依頼が……?」
「おやあ、さっきも彼の映像に食いついてたねー、生駒ちゃん」
私を指さしてにやっとする佐行さんに、えへへとだらしなく笑ってみせた。
「ファンなんですよ。だってかっこいいじゃないですか」
「へえ、ああいうイクメンが好きなんだ」
さらっと言ったのは、シンクに寄りかかってコーヒーをすする阿形さんだ。私はぽかんとして三人を見回したけれど、だれも今の発言に疑問を抱いている様子はない。
……え? イクメン?
「……蔵寄さんて、独身ですよね? 指輪もしてないですし」
「今どき指輪の有無で判断? 時代錯誤」
「え、本当に既婚なんですか? しかもイクメンって」
阿形さんはこれみよがしにため息をついた。
「柊木さん、岳人さんの上のお子さん、いくつでしたっけ、もうすぐ受験?」
受験!?
「うん、今年受験と言ってた」
「……小学校のお受験ですか?」
おそるおそる尋ねると、「高校受験」と三人の声が重なった。
え、中学三年生? てことは十五歳? 蔵寄さんて、三十歳くらいだと思ってたんだけど……じつはもっとはるかに上だったりする?
くすくす笑う声が聞こえる。佐行さんだ。
「奥さんの連れ子だよ。奥さん、年上なんだよね。下の子が岳人さんの実の子。こっちももう……九歳かな?」
視線を受け、柊木さんがうなずいた。
「九歳というのも、かなり大きいような……蔵寄さんの年齢って……」
「三十一。あいつは二十歳で学生結婚してる」
えええ! 意外!
というか、なんで私、この人たちから蔵寄さんの情報を聞いているんだろう。しかもさっきから、『岳人さん』とか『あいつ』とか……。
「あの……、みなさんと蔵寄さんって、どういう……」
私は三人を見回した。佐行さん、阿形さんが柊木さんを見る。柊木さんがまとめた書類をドンと机の上でそろえ、「というわけで」と静かに言った。
「本題に入ろう」
「本題?」
「あそこはみんな忙しいうえに、年次が高くタフな社員が多い。一番圧力をかけづらいタイプの部署なんだろう」
営業部?
「あの、もしかして、六階で柊木さんが話してたお相手、蔵寄さんですか」
阿形さんからコーヒーを受け取りながら、柊木さんが「そう」とうなずく。
「え、お知りあいですか? まさか蔵寄さんから依頼が……?」
「おやあ、さっきも彼の映像に食いついてたねー、生駒ちゃん」
私を指さしてにやっとする佐行さんに、えへへとだらしなく笑ってみせた。
「ファンなんですよ。だってかっこいいじゃないですか」
「へえ、ああいうイクメンが好きなんだ」
さらっと言ったのは、シンクに寄りかかってコーヒーをすする阿形さんだ。私はぽかんとして三人を見回したけれど、だれも今の発言に疑問を抱いている様子はない。
……え? イクメン?
「……蔵寄さんて、独身ですよね? 指輪もしてないですし」
「今どき指輪の有無で判断? 時代錯誤」
「え、本当に既婚なんですか? しかもイクメンって」
阿形さんはこれみよがしにため息をついた。
「柊木さん、岳人さんの上のお子さん、いくつでしたっけ、もうすぐ受験?」
受験!?
「うん、今年受験と言ってた」
「……小学校のお受験ですか?」
おそるおそる尋ねると、「高校受験」と三人の声が重なった。
え、中学三年生? てことは十五歳? 蔵寄さんて、三十歳くらいだと思ってたんだけど……じつはもっとはるかに上だったりする?
くすくす笑う声が聞こえる。佐行さんだ。
「奥さんの連れ子だよ。奥さん、年上なんだよね。下の子が岳人さんの実の子。こっちももう……九歳かな?」
視線を受け、柊木さんがうなずいた。
「九歳というのも、かなり大きいような……蔵寄さんの年齢って……」
「三十一。あいつは二十歳で学生結婚してる」
えええ! 意外!
というか、なんで私、この人たちから蔵寄さんの情報を聞いているんだろう。しかもさっきから、『岳人さん』とか『あいつ』とか……。
「あの……、みなさんと蔵寄さんって、どういう……」
私は三人を見回した。佐行さん、阿形さんが柊木さんを見る。柊木さんがまとめた書類をドンと机の上でそろえ、「というわけで」と静かに言った。
「本題に入ろう」
「本題?」