「やっぱり音声もほしいよな」
デスクに手をついて、阿形さんが残念そうに息をつく。
「まあ難しいよねー」
椅子ごと阿形さんのデスクのほうへ寄って、一緒に画面を見ていた佐行さんが、からっと言って肩をすくめた。
「なんで難しいんですか?」
私はふたりに聞いた。
「カメラの設置場所が、必ずしも集音マイクの設置場所に最適とはかぎらないからだよ。意味のある音を録ろうとしたら、かなり試行錯誤を重ねないと」
「そもそも俺らにそんな予算も権限もないし」
「マイクを設置できるなら、会議室がいいなー。カメラがないぶん、声だけでもさ」
「セクハラとパワハラの温床ね」
ふっと鼻で笑うような声を阿形さんが出したので、ようやく笑顔らしきものを見られるかもと期待して顔を確認したのだけれど、残念ながら無表情だった。
いや、そんなことよりも……。
「あの、ここって……」
「そうだ、説明が遅れたね。生駒ちゃんふうに言うなら、僕らのアジトだよ」
「ついに!」
私は興奮した。ここが第二総務部の本拠地!
部屋の雰囲気こそ想像していたよりだいぶ普通だけれど、個人のPCで防犯カメラの映像を見ているあたり、まったく普通じゃない。
きっとほかにも普通じゃないところがあるんだろうと、そわそわしながら室内を見回す。窓はないものの、照明の明るさのおかげか閉塞感もない。
阿形さんがつけ加える。
「正確に言うと、そのひとつ」
「地下三階の部屋のほかにも、まだ拠点があるんですか」
彼はちょっと目を見開き、「そういえば、あそこは知ってるんだっけ」とつぶやくと、デスクを離れて部屋の隅のほうへ行った。
そこには小さなキッチンが設置されていた。おしゃれなコーヒーメーカーのふたを開け、阿形さんがポットで水をそそぐ。それから豆をセットして、思い出したように私のほうを向いて「コーヒーでいいよね」と言った。
質問というより、希望は受けつけないから、と言い含めている口調だ。
「あっ、はい。いただきます」
「彼方ー、俺はいいよ。さっきいれたの、まだ飲んでるから」
「もともと計算に入れてない」
ぶっきらぼうな返答に、「あーそう」と佐行さんが苦笑し、しかたのない奴だね、とでも言いたげな視線を私に向けた。ついでに私の顔に浮かんだ疑問符に気づいたようで、背後の阿形さんを指さす。
デスクに手をついて、阿形さんが残念そうに息をつく。
「まあ難しいよねー」
椅子ごと阿形さんのデスクのほうへ寄って、一緒に画面を見ていた佐行さんが、からっと言って肩をすくめた。
「なんで難しいんですか?」
私はふたりに聞いた。
「カメラの設置場所が、必ずしも集音マイクの設置場所に最適とはかぎらないからだよ。意味のある音を録ろうとしたら、かなり試行錯誤を重ねないと」
「そもそも俺らにそんな予算も権限もないし」
「マイクを設置できるなら、会議室がいいなー。カメラがないぶん、声だけでもさ」
「セクハラとパワハラの温床ね」
ふっと鼻で笑うような声を阿形さんが出したので、ようやく笑顔らしきものを見られるかもと期待して顔を確認したのだけれど、残念ながら無表情だった。
いや、そんなことよりも……。
「あの、ここって……」
「そうだ、説明が遅れたね。生駒ちゃんふうに言うなら、僕らのアジトだよ」
「ついに!」
私は興奮した。ここが第二総務部の本拠地!
部屋の雰囲気こそ想像していたよりだいぶ普通だけれど、個人のPCで防犯カメラの映像を見ているあたり、まったく普通じゃない。
きっとほかにも普通じゃないところがあるんだろうと、そわそわしながら室内を見回す。窓はないものの、照明の明るさのおかげか閉塞感もない。
阿形さんがつけ加える。
「正確に言うと、そのひとつ」
「地下三階の部屋のほかにも、まだ拠点があるんですか」
彼はちょっと目を見開き、「そういえば、あそこは知ってるんだっけ」とつぶやくと、デスクを離れて部屋の隅のほうへ行った。
そこには小さなキッチンが設置されていた。おしゃれなコーヒーメーカーのふたを開け、阿形さんがポットで水をそそぐ。それから豆をセットして、思い出したように私のほうを向いて「コーヒーでいいよね」と言った。
質問というより、希望は受けつけないから、と言い含めている口調だ。
「あっ、はい。いただきます」
「彼方ー、俺はいいよ。さっきいれたの、まだ飲んでるから」
「もともと計算に入れてない」
ぶっきらぼうな返答に、「あーそう」と佐行さんが苦笑し、しかたのない奴だね、とでも言いたげな視線を私に向けた。ついでに私の顔に浮かんだ疑問符に気づいたようで、背後の阿形さんを指さす。