差出部署も担当者名も書いていない。私は自分の席で封筒を開けた。
 フェイスパックだった。
「あはっ」
 思わず笑ってしまった。パッケージに直接、油性ペンでメッセージが書いてある。
『あたったからあげる! 元気? サギョー』
 食堂のキャンペーンの賞品だ。もう配布されているということは、なにも送られてきていない私は、はずれてしまったということだ。
 宮野さんがこのパックをほしがっていた。メッセージが書かれていなければ、これをあげることもできたんだけれど。
 せっかくだからこれは自分で使おう。私はパックをバッグにしまい、元気ですよ、と心の中で返事をした。たったこれだけのことを、伝えるすべすらない。
 会いたいなあ。
 いや、会いたいというのはなにか語弊があるというか、伝えたいニュアンスと微妙に違うというか……。
 ごちゃごちゃ考えていたとき、バッグの中のパックに視線が引き寄せられた。裏面にもなにか書いてある。
 むしり取る勢いでもう一度取り出した。
『今日のどこか、地下二階で』
 表面の文字と、筆跡が違う。今も名刺入れに入れてある、あのメモ用紙。わざわざ確認するまでもなく、わかる。
 柊木さんの字だ。
 なんでそこそこ大事なことを、いつも裏面に書くんですか。
 私は手帳でスケジュールを確認し、まとまった時間をとれそうなタイミングをさがした。

『地下二階で』としか書かれていないからには、行けばまた会えるんだろう。
 そう考え、打ちあわせやSP物件のチェック、開発や商品担当とのやりとりなどに追われる時間が過ぎた十六時前、私は地下二階に降り立った。
 うろうろしていれば、向こうが見つけてくれるはず。
「あっ、飲み物買っていこうかな?」
「そのくらい出すけど」
 突如、至近距離から聞こえた声に、ぎゃっと飛び上がった。
 男性がすぐそばに立っていた。まっすぐな黒髪に、虹彩も瞳孔もまったく見えない黒い瞳。人形みたいなすべすべの白い肌。ついでに童顔。
「あ……」
「阿形」
 にこりともしない代わりに、わざわざ名乗ってくれる。
 私はまだ激しく鳴っている胸を押さえ、彼に向き直った。
「おぼえてます。お久しぶりです」
「ついてきて」
 佐行さんたちがいないと、だいぶ無口だ。
 くるっと身体をひるがえした彼のあとについて、私も歩きだした。