私は彼女たちと一緒に列に並び、会話に耳を澄ませた。
「懐かしいね、昔はよくこういうイベントやってたよね」
「商品に台湾旅行とかあったもんね。バブリーな時代だったわ」
 へええ、と思いつつ、首を伸ばして今回の景品はなにか見てみる。入口近くにパネルが掲示してあるのだ。どうやら美顔器やパックといった美容系と、高級焼肉店のチケットやすき焼きセットなどの食べ物系に分かれているらしい。
 男性もそれを目当てにしている人が多いのか、いつも以上に列が活気づいている。
「まだまだチャンスはありますよ! 応募は簡単、必要なのは社員番号だけ!」
 呼びこみの声を聞いて、おやっと思った。
 さらに首を伸ばすと、法被を着ている人影がふたり、パネルの横に立っているのが見える。ハンドベルみたいな鐘を持ち、カランカランと鳴らしている。
「長年のご愛顧にお応えして、カクワフーズがお届けする大抽選会! 応募券は一食一枚でございます!」
 あのとき、商談ブースで見たふたりだ。
「この声、津久井(つくい)くん? あんなキャラだったっけ」
「先月評定が出たじゃない? 昇進試験を受ける基準に達してなかったみたい」
 宮野さんたちが話している。
「あの方もご同期ですか?」
「ううん、彼はちょっと下。二年下かな?」
 女性陣にも年次のばらつきがあるらしく、「私は三年違いだな」という人もいる。
「部長にも気に入られてるし、厚生課で敵なしみたいなこと言ってたのに」
「ちょっと調子乗っちゃったんだろうねー」
「あるよね、そういう時期」
 列はさくさく進み、ふたりの呼びこみの声が近づいてくる。文字どおり額に汗してキャンペーンをPRしている彼らの前を通って、食堂へ入った。
 テレビでは俳優の不倫騒動を、ニュースキャスターがまじめな顔で報道していた。
 わざわざニュースの時間を使って国中に知らしめるほどのことかなと毎度思うものの、それだけ平和であることをありがたく思うべきなのかもしれない。
「あー、おいしい」
「たまに来ると、この味に癒されるよね」
「なにより安いし」
 私たちはテーブルが長く連なった列の中ほどに場所を取り、応募券をためつすがめつしながら食事をした。
 お味噌汁の味は戻っていた。これこれ、と言いたくなる、食堂の味だ。