「カクワフーズは、高級ケータリングサービスの斡旋もしてたはずです。コンペの懇親会の食事をここに頼んで、食堂の費用に混ぜて支払ってたんですね。明細は証拠になるから、捨てたんだな」
ふむふむと佐行さんがあごをなでながら言う。
「それって、ダメなんですか、その、ルール上というか、法的にという意味で」
「まず、福利厚生費で計上してるのは完全にNGだね。百歩譲って交際費。だけど僕に言わせるなら、そもそもお前ら自分で払えよ、だな」
「本来は社友会の会費で賄われていたはずだ。増井部長が自分の懐から出して、点数稼ぎをしたんだろう。自分の定年も目前だしな」
「一種の横領ですよねー。そう呼ぶにはケチすぎますけど」
横領!
ようやくわかりやすい不正ワードが飛び出し、私は興奮した。
「第二総務部として、摘発するんですね!?」
けれど、両手を握りしめる私に対し、彼らの反応は期待とまったく違うものだった。ふたりが同時にこちらを見て、声をそろえる。
「え?」
え? って、こっちが言いたい。
「え、……え? 違うんですか? 社内の世直し組織なのでは……」
「だれがそんなことを言った?」
平然と問い返されて、うろたえてしまう。
そういえば、だれかなあ……。
「あの、でも、違反なんですよね? 福利厚生費じゃないのに、ごまかして」
「それは税務、および会計監査の領域だな。監査部と財務管理部の仕事だ。俺たちの知ったことじゃない」
私はすっかり混乱し、「じゃあ……じゃあ」と口ごもりながら、机の上、それから部屋全体を、両手で指し示した。
「じゃあ、なんのために調べたんですか?」
ちょっとした沈黙が下りた。佐行さんは気負いのない表情で、だまって立っている。答えるか否かの判断を、完全に柊木さんに任せている様子だった。
柊木さんの手が動き、机の上の発注書に触れる。視線をそこに落とし、独り言みたいな調子で、彼がつぶやいた。
「この、不正と呼ぶのもバカバカしい、しみったれたインチキ工作の陰で、泣いてるだれかがいる」
ぐ、と彼の指先に、力がこもったのがわかる。
「そのだれかを救うためだ」
天名インダストリーズはAMANAというブランド名で自動車をつくっている。
ふむふむと佐行さんがあごをなでながら言う。
「それって、ダメなんですか、その、ルール上というか、法的にという意味で」
「まず、福利厚生費で計上してるのは完全にNGだね。百歩譲って交際費。だけど僕に言わせるなら、そもそもお前ら自分で払えよ、だな」
「本来は社友会の会費で賄われていたはずだ。増井部長が自分の懐から出して、点数稼ぎをしたんだろう。自分の定年も目前だしな」
「一種の横領ですよねー。そう呼ぶにはケチすぎますけど」
横領!
ようやくわかりやすい不正ワードが飛び出し、私は興奮した。
「第二総務部として、摘発するんですね!?」
けれど、両手を握りしめる私に対し、彼らの反応は期待とまったく違うものだった。ふたりが同時にこちらを見て、声をそろえる。
「え?」
え? って、こっちが言いたい。
「え、……え? 違うんですか? 社内の世直し組織なのでは……」
「だれがそんなことを言った?」
平然と問い返されて、うろたえてしまう。
そういえば、だれかなあ……。
「あの、でも、違反なんですよね? 福利厚生費じゃないのに、ごまかして」
「それは税務、および会計監査の領域だな。監査部と財務管理部の仕事だ。俺たちの知ったことじゃない」
私はすっかり混乱し、「じゃあ……じゃあ」と口ごもりながら、机の上、それから部屋全体を、両手で指し示した。
「じゃあ、なんのために調べたんですか?」
ちょっとした沈黙が下りた。佐行さんは気負いのない表情で、だまって立っている。答えるか否かの判断を、完全に柊木さんに任せている様子だった。
柊木さんの手が動き、机の上の発注書に触れる。視線をそこに落とし、独り言みたいな調子で、彼がつぶやいた。
「この、不正と呼ぶのもバカバカしい、しみったれたインチキ工作の陰で、泣いてるだれかがいる」
ぐ、と彼の指先に、力がこもったのがわかる。
「そのだれかを救うためだ」
天名インダストリーズはAMANAというブランド名で自動車をつくっている。