「別のことに使われているが、支払い側はそれを隠そうとしてる」
「社友会の定期会合? という名のゴルフコンペ? なるほど」
 受話器を耳につけた佐行さんが、私たちにも聞かせる音量の声を出した。はっと柊木さんがそちらに顔を向ける。
「月イチでね……へえ。ちなみに四月もあった?」
 答えはすぐにあったらしい。長身をラックに預けた佐行さんの口元が、にっと笑みをつくった。私たちに向けて、親指を立ててみせる。
「十二日に実施ね、了解!」
 いきなり柊木さんが私の肩を叩いたので、びっくりした。さっきまで冷ややかといっていいほど冷静だった彼の目が、眼鏡の奥で熱っぽく光っている。
 彼は私の肩をつかみ、ぐいと揺らした。
「よくやった」
「は……え?」
「生駒ちゃんはセンスがありますね。ガッツも」
 電話を終え、佐行さんが戻ってくる。柊木さんはその肩もぽんと叩いた。
「あの、つまりどういうことですか? さっきの、なんとか会というのは……」
「社友会。定年退職した元社員、つまりOBの集まりだ。元役員もいるから、いまだに会社に対して影響力がある……と、本人たちは思ってる」
 珍しく柊木さんみずから説明してくれた。捜査がはかどって、テンションが上がっているのかもしれない。
「そういえば、『OBの〇〇です』って名乗る方から、課長宛ての電話を受けたことが何度かあります。営業の電話だったみたいで、課長は困ってましたが」
 あんまり堂々と名乗るから、てっきりオービーという略称の会社かなにかだと思っていた。まさか本当にOBだったとは。
 佐行さんが「それそれ」と苦笑いした。
「退職後に違う会社に勤めてたりすると、そこの商品を買わせに来たりするんだよ。困ったおじいちゃんたちだよね」
 とっくに部活を引退し、卒業までしたのに、延々いばりに来ていたOBの先輩みたいなものか。
「社友会はかなり大きな組織だ。退職時の職位で、会員の序列も明確に決まってる。名簿の管理をし、幹事をするのが代々、現役の人事部長なんだ」
「人事部長……!」
 私は机の上を見下ろした。発注書の写しの、承認者の欄におしてある印。〝増井(ますい)〟。人事部長の名前だ。
「食堂に使うはずの予算を、社友会の集まりに使ってるってことですか」
「だろうな」