『これを合算したものが、カクワフーズの食事の提供価格だ。これが減ったなら、提供する食事の質も下がって当然だ』
『でも、メニューの内容も価格も、とくに変わってませんでしたよね』
 柊木さんがまたうなずいた。
『なにかがずれてる』
『……発注書と納品書を手に入れたら、どうすればいいですか?』
 また伝言板で呼び出せというのなら、そうするけれど。
 もしかして、連絡先を教えてくれたりして……とほのかな期待もあるにはあったのだけれど、柊木さんの返答はそっけなかった。
『地下二階に来てくれればいい』
『ええと、行ってどうすれば』
『来てくれればいい』
『えっ』
 戸惑う私を置いて、彼らはふいと行ってしまった。
 廊下は食堂に出入りする社員たちであふれていた。目で追っていたはずなのに、三人の姿は溶けるように人の群の中に消え、見えなくなった。
 呆然として、さっきまで目の前にあった彼らの残像を見つめた。
 第二総務部から、任務を預かった。
私は廊下の隅っこで、ひとしきりガッツポーズをくり出した。
 ……けれど、こうして部屋でひとり、冷静になってみると、とんでもないことを引き受けた気がする。
 発注書を手に入れるって、どうやって?
 カクワフーズのだれかに言えばもらえるだろうか。もらえる気もする。私が発注元の会社の人間である以上、絶対に見せられないような機密書類でもないはずだ。
 人事部を名乗って、控えをなくしてしまったので写させてほしいとでもお願いすれば、たぶん出してくれるだろう。
 ……そんな嘘をついてもいいものだろうか。人事部に問い合わせでもされたら台無しだし、なにより人をだますなんて、気が進まない。
 柊木さんだって、そんなことをしろと言ったわけじゃないはずだ。
「うーん……」
 これが日ごろ、彼らがしている仕事なんだろうか。まるで探偵だ。
 眠気に耐えきれなくなるまで考えたものの、いいアイデアは浮かばなかった。