「だよねー、気になるよね。ほら、柊木さんが半端なことするからですよ」
 ひじでどつかれ、お椀を持っていた柊木さんが顔をしかめる。
「こぼれる」
「遺憾ながら、多少こぼれても惜しくないですけどね。いつからこんな風味に欠けた味噌汁を出すようになったんですかね?」
「俺の記憶では、ここ二か月くらいだな」
 佐行さんが「ほらあ」とにやりとして柊木さんの肩を叩いた。釣られた柊木さんはおもしろくなさそうに、ふんと鼻を鳴らして目をそらす。
「柊木さんが話さないなら俺が話しちゃいますよ。どこまで話していいかわからないから、話しすぎるかもしれませんけど」
「そのときは俺が止める」
「話せってことですね、了解」
 ぴっと額に手をあてて敬礼すると、佐行さんは私に向き直った。
「まず、僕ら以外にもメンバーはいます。これがひとつ」
 これから彼らについて、彼ら自身の口から語られるのだと思うと興奮が襲う。
「いっ、いかほど」
「まあそれはおいおい。この柊木さんは、実動部隊のリーダー的な立場の人」
「じゃあ、全体的に若いチームってことですか?」
「ほしがるねー」
 聞き手に徹する我慢強さがなくて、ついつい質問してしまう。愉快そうに笑う佐行さんに、私は「すみません」と小さくなった。
 柊木さんは黙々ととんかつ定食を食べ進めていて、こちらの話を聞いているのかどうかもわからない。
 もとから生活音を立てないタイプなのか、彼の食べっぷりはひたすら静かだ。きれいとか行儀がいいとかいうレベルを超えて、〝食べている最中の人がそこにいる〟ということを忘れさせる。
 続きをおとなしく聞こうと気持ちを改めたとき、佐行さんがカウンターのほうに向かって手を振った。
「おーい、こっちこっち」
 振り返ると、小柄な男性がこちらへやってくるところだった。顔立ちや背格好からは私と同じくらいの年齢に見えるけれど、なんとなくもっと上の気がする。
 彼はラーメンの載ったトレイをテーブルに置き、私の隣の椅子を引いた。
「お前ら、見つけづらかった。ふたりだと思ってたから」
 不満そうに漏らし、乱暴に腰を下ろす。
 人形みたいなすべすべした白い肌に、まっすぐでさらっとした黒髪。小づくりの目鼻立ち。それらから想像されるよりだいぶ言動が荒っぽい。