気づけばお箸すら持っていなかった。目の前で柊木さんが食事をし、同僚らしき人と会話しているというだけで胸がいっぱいになり、食べるどころではなかったのだ。
「いただきます」
 小口切りのネギが浮いたお味噌汁をまずいただく。これぞ日本人の心だよなあ、と味わってから、おやっと首をひねった。
「ここの味噌汁、味落ちてないか?」
 まるで私の心の中を代弁したような声がちょうど聞こえてくる。食事を終えた人たちが数人、トレイを手にぞろぞろ横を通っていった。
「俺も思いました。最近どうも、薄いというか」
「味噌ケチってんのかなー?」
 さっきの私と同じく、首をひねりながら返却口のほうへ去っていく。
 私はもう一度お味噌汁をすすった。私が口を開く前に、佐行さんが指摘した。
「味噌は足りてますよね、これ、だしが効いてないんですよ」
 柊木さんが興味なさそうに「ふうん」と言う。
「なんでもいい、食えれば」
「またあ。この間から、飲むたびにちょっと変な顔してるの、知ってますよ」
「……あの!」
 たまらず私はお椀とお箸を置き、声をあげた。ふたりがきょとんとこちらを見る。
「すみません、限界です。どうしても言いたいことが」
「やっぱり味噌の問題かな?」
「いえ、それはだしで合ってると思います。その話じゃなくて」
 首をかしげている佐行さんはひとまず置いておき、柊木さんのほうを見た。彼の静かな目つきは、おそらく私が言おうとしていることを察しているに違いない。
「詮索しないと約束しましたが、無理です。すみません」
 お椀に髪が入りそうになるくらい、深々と頭を下げる。しかしながら話したいことが山ほどあったため、すぐに顔を上げた。
「おふたりは、第二総……の方ということでいいんでしょうか。ですよね、佐行さん、私のこと知ってましたもんね。コンビなんですか? それとももっと大きな組織なんでしょうか? 身を隠してるものだとばかり思っていたんですが、こんなところにさらっと現れて、これっていつもどおりなんですか? 第二……って、どういう存在なんですか?」
〝第二総務部〟という名前をこんなところで口にしていいのかわからず、どうしても伏字みたいな言いかたになってしまう。
 ひと息に放たれた質問に、はじめはぽかんとしていた佐行さんは、最後のほうはうんうんとうなずきながら聞いていた。