というわけで昼休みに入るとすぐ、私は九階を目指した。
 十階建てのビルの最上階なら十階だろう、と思うのだけれど、このビルの十階は屋上だ。エレベーターも九階までしか行かない。
 エレベーターを降りた正面が食堂の入口だ。すでに廊下にはみ出すほどの列ができており、私は最後尾に並んだ。
 さすが気取ったところのなにひとつない社員食堂、ぼんやりしているひまもないくらい列がさくさく進む。ただし次から次へとエレベーターが人を吐き出すので、列が短くなる気配はない。
 すぐに私は食堂内に入ることができ、カレー、麺もの、定食と分かれたカウンターのうち、定食のカウンターに行った。コロッケ定食が狙いだ。
 トレイを取り、カウンターの上をすべらせるようにして列に合流する。勢い余って前の人のトレイにガツンとぶつけてしまい、慌てた。
「あっ、すみません」
「いえ」
 たったそのひと言で、わかってしまった自分も自分だと思う。
 がばっと顔を上げた私を不審に思ったのか、その人が振り返った。私をみとめ、軽く目を見開いたということは、向こうも私をおぼえているのだ。
「柊木さん……!」
「きみは……」
 私は先日彼がしたように、首に提げている自分の社員証を持ち上げた。
「あのっ、あらためて名乗らせてください。宣伝課二年目……」
「あっ、この間の方ですねー?」
 ん?
 一瞬、柊木さんがそんなはしゃいだ声を出したのかと思ってびっくりした。
違った。彼の向こう側から、若い男性がにこにこしながら顔を出している。ワイシャツ姿のその人は、柊木さんの身体越しに、片手を差し出した。
「あれでしょ、回文みたいな名前の子」
「回文ではないです……」
 柊木さんの同僚……かな?
 狐につままれたような気分でその手を握る。なんの握手なのかわからなかったけれど、彼の手は温かく、人間らしくて安心した。
「宣伝課、生駒まい子です」
「惜しい、もう少しだったね!」
「回文を目指してませんので」
 柊木さんがその人の脇腹をひじで小突き、「前」と顎で前方を指す。列が進んでいたことに気づいた男性は、「おっと」と急いで間を詰めた。
 彼らはふたりとも、とんかつ定食を選んだ。小鉢は数種類から選べる。男性は距離的に見えなかったけれど、柊木さんが選んだのは、もやしときゅうりのナムル……に手を伸ばしかけて、いんげんのごま和えだ。
 ふむ。