いくらなんでもそんな時間に業者が来てキャビネットをいじってたら目立つ。
どうせ答えてくれないだろうという予想を裏切り、柊木さんが口を開いた。
「持ち出した日の午後だ」
「え……」
 ということは……。
「私が必死にさがしてた間……」
「もう集金袋は金庫に戻ってたということだ」
 なん……だって……!
 頭を殴られたようなショックだった。
 呆然として立ち尽くす私を、柊木さんが同情のかけらもない目つきで見る。
「きみは金庫をもう一度確かめるべきだった」
「そう、ですね……」
 いや、そうしなかったのも仕方ない。だってそれまでの間に何度も見たし、開けられるのは実質私だけだと信じていたんだから。
 と、自分を擁護してみる。
 そして、そうとわかれば新たな疑問が湧く。
「おかしくないですか?」
 柊木さんが、目だけをこちらに向けた。
「竹崎さんは、柊木さんからお金を借りたことで、親睦会費を手放すことができたわけですよね。つまり金庫に戻す前に、あなたは彼に接触していた」
「事実を積み重ねれば、そうなる」
「それは私があなたに依頼をする前です」
「そうなる」
「どうしてその時点で、親睦会費がなくなったことを知って……いや、待って!」
 話の途中で突然きびすを返し、すたすた歩きはじめた柊木さんを、慌てて追いかける。なんとか追いつきワイシャツの袖をつかんだものの、歩調をゆるめる気配はない。
「なにいきなり立ち去ろうとしてるんですか」
「詮索はしない約束だったはずだ」
「つまり今の疑問の答えは、第二総務部の正体に直結してるってことですね?」
「お答えできかねます」
 電話対応モードに戻ってる!
 柊木さんは私を引きずったまままっすぐエレベーターに向かい、上りのボタンを押した。リンというチャイムの音とともに、扉の上部のランプが光る。
「じゃあ、ほかの質問を考えますから、少し時間をください」
「なぜそこまで必死に?」
「だって気になるじゃないですか! こんな……闇のヒーローみたいな存在」
 彼がフンと鼻を鳴らした気がした。笑っているのかと思って顔を見たけれど、横顔は相変わらずの無表情だった。
「そんなんじゃない」
「でも私は助けられました!」
「金を金庫に戻したのは彼自身だ」
「柊木さんがお金を貸したから戻せたわけでしょう?」
「そうともいえるが」