「続きというほどのこともないんです。いつもどおり商品の補充に伺ったとき、生駒さんが部署の方から集金し、金庫に入れたところを見ました。まとまった額が入っているに違いないと私は考え、だれも見ていない隙に金庫を開けました」
 ははあ……と私は感嘆の息をついた。シンプルかつ大胆、計画性なし。もっとも探偵役が手こずるタイプの犯罪だ。
「けっして最初からそんなつもりがあったわけじゃありません。金庫に触れたのも今回がはじめてです。どうか、ティー・ティーのためにもそれは信じてください」
「はいっ、それは、もう、信じてます」
 私はこくこくとうなずいた。
 悪事を働くタイプの人には見えない。私は、人の印象を読み違えたことはない。魔が差したというのは、まさしくそのとおりなんだろう。
 彼が苦悶の表情を浮かべた。
「ちょっとした盗み見のような気分で、ダイヤルを回す手元を見ていたんです。今思えば、見ないようにするたしなみを持ってさえいたらと悔いています」
「あの、でも結局、お金は元どおりになっていたわけなんですが、それは……?」
「私が戻しました。もしかしたら、一時的に消えていたこともお気づきでないかもと思ったのですが、それも含め、ご報告しにまいりました」
「あ、えーと、気づいてはいました。それはいいとして、待って、戻したのもティー・ティーさん? てことは……?」
 第二総務部はどこにどう絡むんだ? ティー・ティーさんが持ち出して戻す一部始終を、どこかで見ていた? さすがに不自然じゃない? んん……?
 解けていくそばから疑問が増えていく。私は腕組みし、考えをまとめようとした。
「すみません、一度、時系列で整理してもいいですか」
「え、時系列……?」
「あの日、私は朝九時半ごろ、集金袋を出しました。それが最後……」
 ぶつぶつとそこまで語ったとき、竹崎さんの視線が私の背後に移動した。その目が見開かれ、彼は再び、勢いよく頭を下げる。
「お世話になりました……!」
「え?」
 視線を追って振り返り、私は思わず飛びのいた。柊木さんが立っていたのだ。第二総務部の、柊木皇司さんが。
 竹崎さんがバッグから封筒を取り出し、震える手で差し出す。
「あの、どうかこれを……」
 柊木さんは一歩前に出て私の隣に並ぶと、それを受け取った。