三人は口をそろえ、「あの人は謎」とうなずきあった。彼らが言うくらいだ。相当に謎なんだろう。
 そうだ、聞かなきゃいけないことがまだあった。
「あの、柊木さん」
 あぐらから、片ひざを立てた体勢に変えた柊木さんが、見ていたドリンクのメニューを、はいとくれる。
「あっ、ごめんなさい、メニューじゃなくて。あの、前に『最後だけはずれ』って言いましたよね。あれ、どういう意味ですか?」
 佐行さんが「なんの話?」と参加してきた。
「私がはじめて伝言板にメッセージを書いたときのことです。依頼する前からみなさんは、私が親睦会費をなくして困っていることを知ってました。私が伝言板の前で祈ったのを、警備員さんが聞いてたのかと思ってたんですが、違うって……」
 カメラからも死角。警備室に第二総務部のだれかがいたのでもないとなれば、どこにあの祈りを聞くことができるルートがあったのか。
「ミステリ好きが陥る罠だな」
 阿形さんがなんでもないことのように言う。
「え、どういうことですか……」
「わかるなー。手に入った情報は、すべて推理に使わなきゃいけない気がしちゃうんだよね。現実では情報同士に、なんの関係もなかったりするのに」
「どういうことですか?」
 なぜか楽しそうなふたりに、たまらず尋ねた。
 柊木さんは、じっくりメニューに目を通し、それをスタンドに戻してから、ようやく口を開いた。
「俺が、たまたま通りかかって聞いてたんだ」
 あんぐり開けた口を、閉め忘れるほどの衝撃だった。
 からからと佐行さんが笑う。
「生駒ちゃんの推理はね、最初からほぼあたってたんだよ。偶然の部分を読みきれてなかっただけで。だからこそ調査員に任命したんだけど」
「なんだか、僕の不用意な発言がミスリードを招いちゃって、申し訳なかったなと思ってたんだ。でもさすが、本質は見誤らなかったね」
 蔵寄さんもくすくす笑っている。ええ……私が披露した推理って、共有されていたのか。なんだよ……。
「もうちょっと、最初からそう教えてくれても……」
 情けない声が出た。思わず責めるようなまなざしを柊木さんに向けると、ふんと彼が鼻を鳴らし、かすかに口の端を上げる。
「きみの推理力に敬意を表して、と言ったはずだ」
 はじめて私の前に現れたときの台詞だ。
 つまり、〝ほぼ正解〟的な意味だったってこと?
「ええー……ええぇ……」