「まあ、合っていなくもないが」
 柊木さんは口直しとばかりに、ジョッキのビールをぐーっと飲んだ。
「総務部の仕事は、ほかのすべての部署が、自分たちの本業に集中できるように取り計らうことだと俺は思う」
 目が覚めたような感覚だった。
 ほかのすべての部署が、自分たちの本業に集中できるように。
 部署の役割を、そんなふうにとらえたことなんてなかった。会社の中って、そんな優しい関係でつながってもいいものなの?
「第二総務部という名前が、どこかで消えてもおかしくなかった。なのに残ったのは、おそらく、この組織に託された使命の本質と、合っていたからだ」
 すべての従業員が、自分の仕事をまっとうできるように。
 なににも邪魔されず、会社生活を送れるように。
『従業員の幸福のためなら、できるかぎりのことをしますよ』
 あれはそういう覚悟から出た言葉だったのだ。
「今回は柊木、その使命感を社長にうまく利用されたな」
 蔵寄さんが柊木さんを指さした。柊木さんがむっと押しだまる。
「柊木さん、あまのじゃくだから、引っこんでろって言われたときが一番いい働きしちゃうんですよね。さすが社長、読んでますよねー」
「案外、姪の居場所も、社長自身がめちゃくちゃ知りたかったんじゃないですか」
 口々に痛いところをつかれ、彼がじろっとみんなをにらんだ。
「あまのじゃくなのは向こうだ。本気で澤口選手とのつきあいに反対する気なんてなかったくせに。ようは彼を試したんだろ、クソジジイが」
 柊木さんの口から、そんな小学生みたいな罵り言葉が出てくるとは。
「八雲さんも、あんなのによくつきあってるよ」
「あのう、八雲さんって何者なんですか?」
「社長の秘書だよ」
 答えてくれたのは佐行さんだ。
「社長秘書って、女性の方じゃなかったですか? よく一緒にいる、きれいな……」
「それは一般業務の秘書さんね。八雲さんは僕たちの側の人。いわば第二総務部のトップってとこかな」
 ニソウのトップ! 言われてみれば、あのつかみどころのない雰囲気は、その立場にこれ以上ないくらいふさわしい。
「あの人、ほんと謎だよね」
 からそうな手羽先を平然とかじりながら、阿形さんがつぶやいた。
「よくわからない人脈とかめちゃくちゃ持ってるし」
「しかも剣崎さんが社長になる前から今のポジションにいるんですよね、柊木さん?」
「そう聞いてる」