阿形さんの失礼な憶測を否定し、ビールをぐいっと飲む。佐行さんと目が合った。
「生駒ちゃん、真栄ちゃんと柊木さんの関係、まだ気になるんでしょー」
 うえっ!
 柊木さんと阿形さんが同時に顔を上げ、こちらを見る。
「きっ、気になる、とは」
「最初っから変だったもんね。いーじゃん、そのへん俺も気になる。ぶっちゃけロマンス的ななにかとかなかったんですか、柊木さん?」
 不審そうな目つきでみんなを見返す柊木さんの顔に、はっきりと〝?〟と書かれていたため、この話題はあっさり終わった。
 なーんだ。いや、なーんだってなーんだ。
「佐行、俺、大人のポテサラと串焼き盛りあわせと手羽先三種盛りと山芋の梅肉和え、汁なしラーメン、和風ピザ。ふたつずつ」
「いつも思ってるんだけど、その量、どこに入るの?」
 あきれながら、佐行さんが呼び鈴のボタンを押す。
 第二総務部で飲み会なんて、そうないだろうなと思っていたんだけれど、違うのかもしれない。むしろ相当しょっちゅう一緒に飲んでいるような呼吸を感じる。まあ、ただ彼らのチームワークがいいからかもしれないけれど。
「あの、聞いてもいいですか?」
「いいよー」
「みなさんが〝秘書室〟というのは、どういう……」
 注文を取りに来た店員さんと佐行さんが話している間、阿形さんが「そのまんまだよ」と言った。よく食べるうえに飲むのも早いみたいで、もうジョッキが空だ。
 佐行さんが、「彼方は?」とそのジョッキを指さす。「同じの」と阿形さんはそっけなく答えた。
「そのまま、とは」
「俺たちは、人事上は秘書室に所属してる」
「えっ、じゃあ本業って、もしかして秘書業務ですか?」
 まったく役員の近くにいるところを見ていないけれど、そんなのありなの?
 そこにポテトサラダがふたつ来た。ひとつを阿形さんが自分の前に置き、「俺、これに取りかかるんで」と会話から離脱する。佐行さんがあとを引き継いだ。
「第二総務部の成り立ちから説明したほうがわかりやすいかな。ちなみに第二総務部っていうのは、通称ね。過去には本当にそういう部署名だったこともあるみたい」
「そんなに歴史が長いんですか」
「それなりにね。天名インダストリーズの歴史って、クーデターの歴史なんだよ。発端はバブル崩壊のときの大規模リストラ」