いつもより長めにシャワーを浴び、妙な夢の名残を洗い流す。気を取り直して出勤したところ、予想はしていたものの、宣伝課はお通夜状態だった。
「そうかあ、澤口くん、辞めちゃうかあ……」
「酒気帯びで免停なあ……、ずっと隠してて、気が咎めてたんだろうなあ……つらかったろうなあ……」
 夜のうちに発表があったらしい。二回戦で敗退したアマナの、負傷した投手が会社を辞めるという、盛りだくさんのニュースが業界新聞のトップを飾っている。
 第一回戦に現地参戦できなかったぶん、大張り切りで昨日の試合の観戦に臨んだ加具山さんは、打球が澤口さんを直撃した瞬間もオペラグラスで見ていた。感情移入しすぎて、泣いている。
「でも彼が入ってくれてから応援が楽しかった。ありがとう……」
「指導者になりたいって書いてありますね」
「実直な青年なんだよ。リハビリがんばって、またやり直してほしいなあ」
 会社に入るまで、都市対抗という言葉も知らなかった。実業団というものの知識はあったものの、なぜ自動車をつくる会社にいながら、野球をして給与をもらっている人たちがいるのか、わからなかった。
 こんなに応援されているものなんだ。
 彼らが勝つとみんなが誇らしく、負けてしまうと悲しい。
 複数の都県に拠点が点在し、社員同士ですら密な交流が困難な、この巨大な企業に、強固な一体感をもたらす人たち。
 それがアマナ硬式野球部なのだ。

「それではー」と佐行さんの音頭が個室に響く。
「がんばって夏を乗りきりましょう、かんぱーいっ!」
 テーブルの中央でガツンとジョッキがぶつかりあう。全部で五個。第二総務部のメンバープラス、蔵寄さんと私だ。
 仕事終わり、帰ろうとしていたところを蔵寄さんにちょいちょいと招かれて来てみれば、まさかの柊木さんたちがいたという、うれしい驚き。
 駅から離れたところにあり、隠れ家的な佇まいのこの居酒屋は、同じ会社の人に会う心配もない。
「なるほどなあ、そういう事情があっての退職だったんだ、澤口選手」
 お座敷の四角いテーブルで、私は蔵寄さんと阿形さんに挟まれている。向かい側には柊木さんと佐行さん。
「真栄さん、元気だった?」
 メニューを見ていた柊木さんは顔も上げずに「うん」と答える。私は今朝見た夢を思い出してしまい、もぞもぞした。
「もう足しびれたの?」
「違います」