「えーと、はい、たぶん」
「そこって、社長直属の組織なんでしょう?」
 え……ええー?
 そうなの?

 はっと気づくと、車は停まっていた。
 車内はほどよく涼しいし、柊木さんの運転は上手だし、アマナのフラグシップ車種である『グリュック』はリヤシートですら至福の乗り心地だし、どうやら走りだしてすぐ眠ってしまったらしい。
 左右を見ると、佐行さんと阿形さんもそれぞれ熟睡している。
「ありがとうございました、柊木さん」
 静かな声が聞こえる。シートベルトをはずす音がした。そうか、ここは真栄さんを降ろす駅だ。一度別荘に戻るから、新幹線の駅を目指したんだった。
「いや」
「柊木さんには、助けられてばかり」
 起きていることを悟られないよう、薄目を開けてふたりの様子を観察する。運転席の柊木さんが、ふっと笑ったような気がした。
「きみこそ、強くなった」
「雲隠れしてる間、考えたの。柊木さんのことも思い出してました。自分を守れる強さがないと、だれかがその弱さをかぶるんだなって」
「そんなつもりで助けてない」
「また会えます?」
 真栄さんが助手席のドアを開け、柊木さんを振り返った。柊木さんはステアリングに片手を置き、「さあ」と微笑んだだけだった。
 なんともいえない空気が、ふたりを包む。
 無言で見つめあうふたりの距離が、次第に縮まり──……。
「うわ──────!!」
 はっと目が覚めた。えっ、さっき目を覚ましたところじゃなかったっけ。
 背中が痛い。私は混乱する脳を立て直し、ここが自分のマンションの部屋であることを理解した。ベッドから落ちたのだ。
「いて……」
 起き上がってみて、落ちた理由がわかった。いつもはエアコンを除湿にして寝るのだけれど、それが切れている。寝苦しさにごろごろするうち、落ちたんだろう。
 携帯のアラームは鳴る直前だ。シャワーを浴びて出社の準備をすることにした。
 まったく、なんだってあんな夢を見たのか。
 地下鉄に揺られてるうち、現実と夢の区別がついてくる。現実のあの別れ際は、『さあ』に対して真栄さんが軽やかに車を降り、『みなさんが起きたらよろしくお伝えください』と可憐に微笑んで終わったはずだ。
 私は狸寝入りを決めこみ、そのうちにまた眠ってしまい、会社の地下駐車場に着いたところで両隣のふたりに起こされた。
 これが正しい顛末だ。