第二総務部の人たちは、車で来ていた。地下の駐車場から車を出す柊木さんを、裏口の車回しで待つ。佐行さんと阿形さんは携帯でニュースをチェックしている。
 リーダーに運転させるって、すごいな、この人たち。
 私は隣に立つ真栄さんをちらっと見た。内側から発光しているような白い肌に、傷むという言葉を知らなそうな髪。薄いメイクが素材のよさを引き立てている。
「そういえばあんた、真栄さんに聞きたいことあったんじゃないの」
 ひえっ!
 だしぬけに阿形さんが無茶な球を投げてきた。真栄さんがにこっと微笑む。
「なんでもどうぞ」
「いえっ、その、ええと……」
「真栄ちゃんが柊木さんと出会ったきっかけをさ、俺たちの口から言っちゃうのもあれかなと思って。よかったら話してあげてよ」
 佐行さん、優しい……。
 私の狼狽ターンが予想より早く終わって不満なのか、阿形さんが携帯を見ながら、チッと小さく舌打ちした。この人……。
「あの、今さらですが、宣伝課の生駒と申します」
「宣伝課さんなんですね。後輩たちがお世話になってます。柊木さんは、私がアマナフレンズだったころ、ちょっと困ったファンの方から、かばってくれたんです」
「困ったファンの方?」
「いわゆるストーカーだよ」と佐行さんが補足する。
 なるほど、過激なファンがいるとは聞いていたけれど、やっぱり本当にいるんだ。
「ファンの方は聞き分けがよくなかったので、殴りあいになりました。でも、公には柊木さんが一方的に暴力を振るったということにされました。その困ったファンというのが、天名インダストリーズの管理職の方だったからです」
「え……!」
「会社はその管理職の方を守ろうとしたんです。柊木さんは不当な処分を受けました。解雇一歩手前だったところを、伯父が拾ったと聞いています」
「剣崎社長が……」
「当時はまだ社長ではありませんでした。でも『いずれ俺の部署になる』と言って、柊木さんを今の部署に送りこんだそうです。あの判断はじつに正しかったと、今でもよく自慢しています」
「俺の部署?」
 ブレーキ音と、鉄のパネルを踏むような音がして、地下駐車場からヘッドライトが飛び出してきた。そのまま車回しをぐるっと一周し、私たちの前に停まる。
 真栄さんが、きょとんとして私を見た。
「第二総務部ですよね? あっ、あんまり言っちゃいけないんでしたっけ」