ぐぐぐ、とふたりがにらみあう。真栄さん、想像していたよりだいぶお強い……。
そのとき、阿形さんが「あっ」と小さく声をあげた。次の瞬間、私の横にいたはずの彼の姿が消え、気づいたときには角の向こうから「てめえ!」と怒声がする。
揉みあうような音のあと、ひとりの男性が私たちの足元に転がされてきた。
「あ……!」
「うわー、よくここまで入ってこられたね?」
佐行さんのあきれ声に、まんざらでもなさそうに歯を見せているのは、澤口さんをつけ回していたカメラマンだ。「ほめてねえよ」とその背中を阿形さんが踏む。
彼を見つめていた真栄さんの表情が、すっと冷えたものになった。
「あなたが彼につきまとってたのね。なにが楽しくて、人にストレスを与えてお金を稼いでいるの? 人間のクズ」
「彼氏が過去にしたことは棚に上げて、それですかぁ」
男性は床に転がったまま、持っていたカメラで真栄さんを撮った。ピッ、カシャ、と電子音がする。ああいう人たちの使っているカメラも、あんな普通の音がするんだな、と新しいことを知った気がした。
真栄さんはぐっと苛立ちをのみこみ、顔をそむけることもなく、不躾な撮影を受け止めている。
「一度失敗した人は、やり直しちゃいけないの?」
「それは世間さまが決めるんじゃないですか」
「世間が彼のなにを知ってるの? 彼がどれほど親切で思いやりがあるか、アスリートとしてどれほどストイックに自分を追いこんでるか、理想を持って挑んでるか、だれにわかるの?」
「私にはなんとも。しかし、なにもかもを知ってください、そのうえで見逃してくださいってのは、たいそう傲慢ですなあ」
ピ、カシャ、ピ。人をイライラさせるのが上手な人だ。
「だれにけがをさせたわけでもない。罰則にも従った。彼はもう償った!」
「罰則ってのは抑止力ですよ、罪の重さとイコールじゃあない。終身刑になった殺人者が、寿命をまっとうしたら償ったことになります?」
「程度の話ってあるでしょう!」
「なるほど、あんたは彼の罪をとても軽いものと考えているわけだ」
なぜか阿形さんにも佐行さんにも、そして柊木さんにも、このやりとりを止める様子がない。不快そうなまなざしを男性に向けてはいるものの、だれも手を出さない。
唇を震わせ、真栄さんは真っ青になっている。
「どうして、そういう……」
「あの……!」
そのとき、阿形さんが「あっ」と小さく声をあげた。次の瞬間、私の横にいたはずの彼の姿が消え、気づいたときには角の向こうから「てめえ!」と怒声がする。
揉みあうような音のあと、ひとりの男性が私たちの足元に転がされてきた。
「あ……!」
「うわー、よくここまで入ってこられたね?」
佐行さんのあきれ声に、まんざらでもなさそうに歯を見せているのは、澤口さんをつけ回していたカメラマンだ。「ほめてねえよ」とその背中を阿形さんが踏む。
彼を見つめていた真栄さんの表情が、すっと冷えたものになった。
「あなたが彼につきまとってたのね。なにが楽しくて、人にストレスを与えてお金を稼いでいるの? 人間のクズ」
「彼氏が過去にしたことは棚に上げて、それですかぁ」
男性は床に転がったまま、持っていたカメラで真栄さんを撮った。ピッ、カシャ、と電子音がする。ああいう人たちの使っているカメラも、あんな普通の音がするんだな、と新しいことを知った気がした。
真栄さんはぐっと苛立ちをのみこみ、顔をそむけることもなく、不躾な撮影を受け止めている。
「一度失敗した人は、やり直しちゃいけないの?」
「それは世間さまが決めるんじゃないですか」
「世間が彼のなにを知ってるの? 彼がどれほど親切で思いやりがあるか、アスリートとしてどれほどストイックに自分を追いこんでるか、理想を持って挑んでるか、だれにわかるの?」
「私にはなんとも。しかし、なにもかもを知ってください、そのうえで見逃してくださいってのは、たいそう傲慢ですなあ」
ピ、カシャ、ピ。人をイライラさせるのが上手な人だ。
「だれにけがをさせたわけでもない。罰則にも従った。彼はもう償った!」
「罰則ってのは抑止力ですよ、罪の重さとイコールじゃあない。終身刑になった殺人者が、寿命をまっとうしたら償ったことになります?」
「程度の話ってあるでしょう!」
「なるほど、あんたは彼の罪をとても軽いものと考えているわけだ」
なぜか阿形さんにも佐行さんにも、そして柊木さんにも、このやりとりを止める様子がない。不快そうなまなざしを男性に向けてはいるものの、だれも手を出さない。
唇を震わせ、真栄さんは真っ青になっている。
「どうして、そういう……」
「あの……!」