真栄さんの、襟のあるシャツに細身のパンツという簡素な服装が、身づくろいをする余裕がなかったことと、そんな事態の中でも発揮される良識を表しているように見える。肩で息をしながら、彼女が口を開いた。
「柊木さん……」
「その部屋だ」
柊木さんが病室を指さす。ドアが薄く開き、佐行さんがすべり出てきた。
「話せますよ、どうぞ」
「ありがとうございます。柊木さん、一緒に来てくれませんか。そのほうが冷静になれそうで」
懇願するような声だった。柊木さんは少しためらいを見せ、それからうなずいた。
ふたりが病室へ消えると、廊下は再びしんとする。私はひとり掛けのソファが並んでいる一角に行き、腰を下ろした。すぐに両隣が埋まる。
「ふたりのあとで、会わせてもらおうね、生駒ちゃん」
「柊木さん、彼女にはほんと甘いよな」
「あの……」
私は、本人のいないところであれかなあと思いつつも、尋ねた。
「真栄さんと柊木さんて、どういうご関係なんですか?」
「柊木さんがニソウに入るきっかけをつくったのが、彼女だよ」
あっさり教えてくれたのは、阿形さんのほうだった。
「きっかけ?」
「そう。俺らが入る前だから、聞いた話でしかないけど……」
言いかけてふと口をつぐみ、阿形さんは廊下の角を振り返った。ぎょっと目を見開き、「早いよ」とつぶやいて立ち上がる。佐行さんと私も立った。
悠然とした足取りで角から姿を現したのは、剣崎社長だった。うしろには八雲さんが控えている。「会議中のはずだったんだけどな」と阿形さんが小声でぼやいた。
さりげなく彼らの行く手を阻むように、佐行さんが一歩前へ出た。
「お疲れさまです、社長。今来客中ですので、お待ちを」
「来てるのは俺の姪だろう? 入ってなにが悪い」
どうして真栄さんが来ていることを知っているんだろう。
佐行さんはだまって立っている。柊木さんを待っているに違いない。ここでの会話はおそらく中に聞こえている。今のやりとりで、社長が来たことを知ったはずだ。
私たちの期待に応えるかのごとく、スライドドアが開き、柊木さんが出てきた。
彼の目は最初から社長をとらえていた。ゆっくりと近づき、佐行さんの背中をねぎらうように叩いて下がらせる。それから慇懃に微笑んだ。
「お疲れさまです。この週末、どちらにいらしたんですか、さがしたんですよ」
「柊木さん……」
「その部屋だ」
柊木さんが病室を指さす。ドアが薄く開き、佐行さんがすべり出てきた。
「話せますよ、どうぞ」
「ありがとうございます。柊木さん、一緒に来てくれませんか。そのほうが冷静になれそうで」
懇願するような声だった。柊木さんは少しためらいを見せ、それからうなずいた。
ふたりが病室へ消えると、廊下は再びしんとする。私はひとり掛けのソファが並んでいる一角に行き、腰を下ろした。すぐに両隣が埋まる。
「ふたりのあとで、会わせてもらおうね、生駒ちゃん」
「柊木さん、彼女にはほんと甘いよな」
「あの……」
私は、本人のいないところであれかなあと思いつつも、尋ねた。
「真栄さんと柊木さんて、どういうご関係なんですか?」
「柊木さんがニソウに入るきっかけをつくったのが、彼女だよ」
あっさり教えてくれたのは、阿形さんのほうだった。
「きっかけ?」
「そう。俺らが入る前だから、聞いた話でしかないけど……」
言いかけてふと口をつぐみ、阿形さんは廊下の角を振り返った。ぎょっと目を見開き、「早いよ」とつぶやいて立ち上がる。佐行さんと私も立った。
悠然とした足取りで角から姿を現したのは、剣崎社長だった。うしろには八雲さんが控えている。「会議中のはずだったんだけどな」と阿形さんが小声でぼやいた。
さりげなく彼らの行く手を阻むように、佐行さんが一歩前へ出た。
「お疲れさまです、社長。今来客中ですので、お待ちを」
「来てるのは俺の姪だろう? 入ってなにが悪い」
どうして真栄さんが来ていることを知っているんだろう。
佐行さんはだまって立っている。柊木さんを待っているに違いない。ここでの会話はおそらく中に聞こえている。今のやりとりで、社長が来たことを知ったはずだ。
私たちの期待に応えるかのごとく、スライドドアが開き、柊木さんが出てきた。
彼の目は最初から社長をとらえていた。ゆっくりと近づき、佐行さんの背中をねぎらうように叩いて下がらせる。それから慇懃に微笑んだ。
「お疲れさまです。この週末、どちらにいらしたんですか、さがしたんですよ」