『開発部門では、撮影機能のついた機材は持ちこみNGだから、毎朝私物の携帯を預けるんでしょう? でも預けた先ではただ箱に入れられてるだけで、だれでも他人のものを見られると聞きました。見る人なんていないよって彼は笑ってたけど』
「そういうおおらかさが彼の魅力じゃないかな」
『私は今、だれも頼りにできないの。彼ですら彼自身を守れてない。この件にかかわるつもりなら、お願いします、柊木さん、伯父が彼に手出しをするのを止めて』
柊木さんはすぐには答えなかった。真栄さんがたたみかけるように言う。
『私の相手として気に入らないというなら、文句も聞きます。だけど権力をふりかざして彼の野球人生を奪うのは間違ってる。今は頭に血が上ってる伯父も、柊木さんの言葉ならきっと聞く。お願いします』
「……考えておく。とりあえず、気をつけて」
あいまいな返事で、彼は通話を終えた。携帯に手を触れたまま、持ち上げるでもなくじっと見つめ、なにか考えている。
その携帯がまた震えだした。画面が光り、発信者の名前が表示される。柊木さんは最初からスピーカーホンで応答した。
「阿形? 蔵寄と生駒調査員が聞いてる」
『了解。製作所で情報をさぐりました。技本部長が黒幕なのは間違いないですね。最近は硬式野球部の監督を味方に取りこもうとしているみたいです』
阿形さん、姿を見ないと思ったら茨城製作所にいるのか。
もしかしたら、というか当然ながら、茨城製作所にも現地調査員を配置しているのかもしれない。彼らならやりかねない。
「野球部は地元のヒーローだからな」
『です。野球部推進派として名を売れば、製作所周辺の町ごと人心を味方につけられる。これは社内でも無視できない影響力を持ちます。ただこの監督が、スポーツ純粋培養って感じの人で腹芸が通じない。本部長ばかり空回っているようです』
「ざまあみろってところだな」
『それと、こっちの製作所内で、本部長の取り巻き集団が形成されてるようです。リストを柊木さん宛てにお送りします。名前を見たらぴんとくると思いますよ』
柊木さんがPCのキーを叩き、メールを開いた。私と蔵寄さんも近寄って、添付されていたリストを見る。私は知らない名前ばかりだ。
だけど柊木さんと蔵寄さんは、はっと顔を見あわせた。
「反剣崎派か」
「わかりやすい構図で助かる」
「そういうおおらかさが彼の魅力じゃないかな」
『私は今、だれも頼りにできないの。彼ですら彼自身を守れてない。この件にかかわるつもりなら、お願いします、柊木さん、伯父が彼に手出しをするのを止めて』
柊木さんはすぐには答えなかった。真栄さんがたたみかけるように言う。
『私の相手として気に入らないというなら、文句も聞きます。だけど権力をふりかざして彼の野球人生を奪うのは間違ってる。今は頭に血が上ってる伯父も、柊木さんの言葉ならきっと聞く。お願いします』
「……考えておく。とりあえず、気をつけて」
あいまいな返事で、彼は通話を終えた。携帯に手を触れたまま、持ち上げるでもなくじっと見つめ、なにか考えている。
その携帯がまた震えだした。画面が光り、発信者の名前が表示される。柊木さんは最初からスピーカーホンで応答した。
「阿形? 蔵寄と生駒調査員が聞いてる」
『了解。製作所で情報をさぐりました。技本部長が黒幕なのは間違いないですね。最近は硬式野球部の監督を味方に取りこもうとしているみたいです』
阿形さん、姿を見ないと思ったら茨城製作所にいるのか。
もしかしたら、というか当然ながら、茨城製作所にも現地調査員を配置しているのかもしれない。彼らならやりかねない。
「野球部は地元のヒーローだからな」
『です。野球部推進派として名を売れば、製作所周辺の町ごと人心を味方につけられる。これは社内でも無視できない影響力を持ちます。ただこの監督が、スポーツ純粋培養って感じの人で腹芸が通じない。本部長ばかり空回っているようです』
「ざまあみろってところだな」
『それと、こっちの製作所内で、本部長の取り巻き集団が形成されてるようです。リストを柊木さん宛てにお送りします。名前を見たらぴんとくると思いますよ』
柊木さんがPCのキーを叩き、メールを開いた。私と蔵寄さんも近寄って、添付されていたリストを見る。私は知らない名前ばかりだ。
だけど柊木さんと蔵寄さんは、はっと顔を見あわせた。
「反剣崎派か」
「わかりやすい構図で助かる」