地下中三階の部屋を訪れると、柊木さんがひとりで夜食を食べていた。
蔵寄さんの説明を聞き、きょとんとする。
「俺と?」
食べているのは、食堂で売られているパンだ。いつもこんな感じで夕食を済ませているんだろうか。絶対に身体によくない。
「そう。柊木宛てになら、電話をするって。やっぱり真栄さんにとって、お前は特別な存在なんだろうな」
柊木さんはなにも言わず、パンの袋をくしゃっと丸め、コーヒーを飲んだ。
蔵寄さんがどこかへ電話をかける。おそらく柊木さんが了承した旨を報告しているのだ。間を置かず、柊木さんの携帯が震えた。私たちが見守る中、彼が画面にコツッと振れ、耳にあてる。
「柊木です」
私は隣の席の椅子に、蔵寄さんは柊木さんのデスクに腰をかけ、向こうの声が聞こえるわけはないとわかってはいるものの、つい息を殺して耳を澄ます。
「久しぶり。いや、無事でよかった」
柊木さんがそう言って微笑んだ。すごく優しい微笑み……に見えた。
「この話を俺の仲間にも聞かせたいんだけど……いや、澤口くんはいない。社長も」
少しやりとりし、柊木さんは携帯をデスクに置いた。トンと画面を指でつつき、スピーカーに切り替える。落ち着いた女の人の声が聞こえてきた。
『彼には心配させてしまうけれど、私は当分ここにいます。伯父は彼を退部させることができる。そうしたら、ドラフトの指名対象からもはずれる。そんなことをさせるわけにはいかないの。今は伯父を刺激したくない』
「今いるのは、どこ?」
『蓼科の別荘。伯父の持ち物だけど、あの人は田舎が嫌いだから、私の母に管理を任せて、ここには関心も示しません』
つまり柊木さんの読みは、最初からあたっていたのだ。
真栄さんの声には、自暴自棄だったりヒステリックだったりするところは少しもない。冷静な人が、冷静に考えた結果、身を隠している。
「どうして澤口選手とも話さない?」
『彼の携帯を、だれかが盗み見てると思うんです。私たちしか知らないはずの待ちあわせ場所に、不快なカメラマンが現れたことがあったの』
「なるほど」
くすっと電話の向こうで笑った気配がした。
『柊木さんなら、考えすぎだって言ったりしないと思ってました』
「信じるに足りすぎる材料がこちらにもあってね。しかし、盗み見とは……」
蔵寄さんの説明を聞き、きょとんとする。
「俺と?」
食べているのは、食堂で売られているパンだ。いつもこんな感じで夕食を済ませているんだろうか。絶対に身体によくない。
「そう。柊木宛てになら、電話をするって。やっぱり真栄さんにとって、お前は特別な存在なんだろうな」
柊木さんはなにも言わず、パンの袋をくしゃっと丸め、コーヒーを飲んだ。
蔵寄さんがどこかへ電話をかける。おそらく柊木さんが了承した旨を報告しているのだ。間を置かず、柊木さんの携帯が震えた。私たちが見守る中、彼が画面にコツッと振れ、耳にあてる。
「柊木です」
私は隣の席の椅子に、蔵寄さんは柊木さんのデスクに腰をかけ、向こうの声が聞こえるわけはないとわかってはいるものの、つい息を殺して耳を澄ます。
「久しぶり。いや、無事でよかった」
柊木さんがそう言って微笑んだ。すごく優しい微笑み……に見えた。
「この話を俺の仲間にも聞かせたいんだけど……いや、澤口くんはいない。社長も」
少しやりとりし、柊木さんは携帯をデスクに置いた。トンと画面を指でつつき、スピーカーに切り替える。落ち着いた女の人の声が聞こえてきた。
『彼には心配させてしまうけれど、私は当分ここにいます。伯父は彼を退部させることができる。そうしたら、ドラフトの指名対象からもはずれる。そんなことをさせるわけにはいかないの。今は伯父を刺激したくない』
「今いるのは、どこ?」
『蓼科の別荘。伯父の持ち物だけど、あの人は田舎が嫌いだから、私の母に管理を任せて、ここには関心も示しません』
つまり柊木さんの読みは、最初からあたっていたのだ。
真栄さんの声には、自暴自棄だったりヒステリックだったりするところは少しもない。冷静な人が、冷静に考えた結果、身を隠している。
「どうして澤口選手とも話さない?」
『彼の携帯を、だれかが盗み見てると思うんです。私たちしか知らないはずの待ちあわせ場所に、不快なカメラマンが現れたことがあったの』
「なるほど」
くすっと電話の向こうで笑った気配がした。
『柊木さんなら、考えすぎだって言ったりしないと思ってました』
「信じるに足りすぎる材料がこちらにもあってね。しかし、盗み見とは……」